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127 名前:ゲーム好き名無しさん (ワッチョイ 6f8c-x36u)[sage] 投稿日:2017/01/21(土) 08 29 36.98 ID i9skEZkL0 [1/2] 複数同時報告かつ、特定のコンテンツ叩きになるが一件 コンベンションで参加した卓が今話題のフェイトネタの卓だった。オリジナル要素としてPC1に令呪、回数制限があるが何でも命令を聞かせる事の出来るリソースがあった。 俺はサーバントのハンドアウトをやったんだが、この令呪を盾に、俺のPCは俺の意思そっちのけでPTの共通リソースとして使われることになった。 一番酷いのは情報得るために身体売らされた。元ネタ知っている周りは「くっころ展開ww」と盛り上がっていたが。 反論しようとしたらPL1が「ああ、言うこと聞かないなら自害させます。それは困るよねGM」というので、 GMも「令呪だから、どうしようもない。頼むよ」と何故か俺に折れてくれるように頼まれた。 最後は、世界を救うために誰か1人のロストが確定するシーンで。PL1は容赦なく俺のPCを捨てる事を提案。そのまま俺PCロスト GMはこんな展開じゃないと落ち込んでブツブツ言っていたが、こうなっても仕方ないだろう。 フェイトをあまり知らない人も参加していたが完全に置いてけぼりだったり、上の令呪の使い方と、元がエロゲーである事をGMが教えたんで引いてたよ。 それから別のコンベに参加したんだが、抽選の結果またフェイト卓に入る事になった。 PC1に当たったんだが「PC1は一般人」そのシステムでPCが得られる能力を一切得られない。 当然、普通の判定にも一切修正が乗らず成功しないという悲惨な物だった。出来る事は「令呪」を使って サーバントの能力を強化する事だけだった。(他のPCもサーバントで、NPCのマスターがいたが、俺だけPC2のマスター役だった) 結局、調査も戦闘も盛り上がっている周りを見ているだけというつまらない物で、一日を無駄にした。 そして、オンセでやろうとしたダブルクロスがまたフェイトネタだった。 PC2がサーバント役で、配布点が300点、バックトラック不要、トライブリードなのにエフェクト取得の制限は ピュアブリードいうチート枠で、参加者がPC2を取り合って抽選したんだが、抽選落ちした人が次々と参加辞退して流卓してしまった。 フェイトが好きなのは解るが、それがTRPGとして面白いかちゃんと考えてくれ。 これからフェイトネタをやろうとしているGMがここを見ていたら、その、頼む。 128 名前:ゲーム好き名無しさん (ワッチョイWW e353-wsBs)[sage] 投稿日:2017/01/21(土) 08 44 11.67 ID sm82fR2O0 フェイトがどうこうってより「各PCの立場が明らかに対等ではない設定」は 気心の知れた同士でなら楽しめるかも知れないが コンベや一見さん集めたオンセでやるのは完全なるアホとしか 129 名前:ゲーム好き名無しさん (アウアウカー Sac7-7AoK)[sage] 投稿日:2017/01/21(土) 08 53 11.28 ID /MLSfZvra [1/2] 少なくともくっ殺展開は元ネタになかったと思うぞ 130 名前:ゲーム好き名無しさん (ワイマゲー MMdf-jsuU)[sage] 投稿日:2017/01/21(土) 08 54 46.33 ID aakiESkVM 漫画原作やアニメ原作を 考えもせずTRPGに落とし込もうとするとこうなるという典型…で片付けるには酷いなあ 131 名前:ゲーム好き名無しさん (ガラプー KK47-lL+H)[sage] 投稿日:2017/01/21(土) 09 05 16.79 ID lC9YOAbAK 同人ゲーの中でも最悪なシステムと面子に当たったと言う感じだな コンベンションで当たりたくはないな 132 名前:ゲーム好き名無しさん (ワッチョイWW 2304-bjld)[sage] 投稿日:2017/01/21(土) 09 08 07.90 ID 0OZK0a120 そもそも令呪って命令権だけど、命令内容が抽象的になる程強制力が落ちて効かなくなるって設定があるんだが (「自害せよ、ランサー」みたいなのはよく効く) そいつ、原作アニメも見てなくてソシャゲしか知らないじゃなかろうな… 133 名前:ゲーム好き名無しさん (アウアウカー Sac7-7AoK)[sage] 投稿日:2017/01/21(土) 09 24 26.67 ID /MLSfZvra [2/2] そもそもサーバントはその気になれば令呪使う前にマスターブチ殺せるやつらばかりだしなぁ その気にならんのは「聖杯戦争の勝利」っていう利害の一致から「まだ殺す時じゃない」ってだけで ガチで殺されたマスターもざらにいるし 134 名前:ゲーム好き名無しさん (ワッチョイ ff7b-FDN4)[sage] 投稿日:2017/01/21(土) 09 59 56.74 ID Im84sh5C0 エロゲ的展開をこれ見よがしに出してくる奴は嫌いよ もっとひっそりとやってくれ 135 名前:ゲーム好き名無しさん (ワッチョイ 2317-3qL8)[sage] 投稿日:2017/01/21(土) 10 25 12.60 ID aFJUWIPt0 乙 しかし「フェイト」だと元が一般名詞なので特定できない不具合が 136 名前:ゲーム好き名無しさん (ワッチョイWW ff17-q6Sq)[sage] 投稿日:2017/01/21(土) 10 57 06.63 ID iB0wyhnu0 原作知ってるどうのこうのよりもシステムの練り具合が悲惨すぎるのが理由だと思う あとそーゆーコアな卓は事前募集で参加したい人に参加させてくれ 137 名前:ゲーム好き名無しさん (スップ Sd1f-uPXs)[] 投稿日:2017/01/21(土) 11 58 52.46 ID BchDyfEOd [2/2] 127 乙。すごく乙。 最初のだけでMKP狙えるな。マスターPLは論外としてもGMがアホすぎる「令呪だからどうしようもない」じゃねーよ、どうしようもないのはお前の頭だよ 俺は基本「その場でベストの対応できなくても仕方ない」派だけどこれはないわ。困の片棒担いでどうするよ 138 名前:ゲーム好き名無しさん (アークセーT Sx87-ZNqe)[sage] 投稿日:2017/01/21(土) 12 13 54.01 ID eDTERQ4Ex 132 令呪によるPCロストを盾にしてメタでいうことを聞かせたって話でそ 139 名前:ゲーム好き名無しさん (アウアウカー Sac7-wsBs)[sage] 投稿日:2017/01/21(土) 12 19 03.55 ID iyz1Gc0la 138 だから原作に忠実な設定ならその脅しは意味がないって話でそ 140 名前:ゲーム好き名無しさん (スッップ Sd1f-AVdH)[sage] 投稿日:2017/01/21(土) 12 39 35.22 ID 0WgPW0l+d シナリオ作成段階でシステムの欠陥に気がつかないGMが悪い。 つーか原作でもあったよな、強制命令で無関係の一般人襲って魔力得るようなことも出来るって説明が。 141 名前:ゲーム好き名無しさん (ワッチョイ ff58-u5as)[sage] 投稿日:2017/01/21(土) 12 45 53.19 ID USL6U6pT0 信頼のおけるプレイヤー同士じゃないと容易に所謂「αプレイヤー問題」を引き起こす不平等レギュ シリーズ展開自体が長期化しすぎて「名前ぐらいは知ってる~アニメぐらいなら観た」程度からかなりディープな型月ヲタまでイメージの格差が大きくなりがちなFateシリーズという題材 とまぁ、コンベでやるのに全く向いてない素材を、頭の悪いGMと意地の悪いPLがものの見事に調理してしまったある意味当然の結果というか つーか、Fateシリーズの主人公って一般人出身の設定上弱者でも本当に令呪で支援するしかできなかった奴なんていたっけ。 設定上バイト感覚で雇われた魔術の素養が多少ある程度の一般人でしか無いソシャゲ版主人公ですら結局シナリオで割と動き回ってるような 142 名前:ゲーム好き名無しさん (ワッチョイW cf5b-Taza)[sage] 投稿日:2017/01/21(土) 13 14 39.78 ID Z9Pj0amX0 [1/3] 133 1作目の時点で「マスター殺してきた」「マスターを殺したいがギリギリ我慢してる」「マスターに殺された」「マスターを裏切れないようにされてる」 と一通り揃ってるのがFateのマスターとサーヴァントの関係だからな 一つ目の報告はPL側はともかく、GMは「別に裏切れるよ?」って普通にアドバイスできるはずなんだよな 悪いがGMも困というしかない 141 居ないね。サブキャラには居るが主人公には居ない ソシャゲのあの主人公も大概一般人(異常者)だし、第一後ろで見てるだけじゃないしなあ そしてTRPGなんだから「できる事がない」キャラHOなんて用意するのはアホだ 143 名前:ゲーム好き名無しさん (アウアウカー Sac7-Rp/E)[sage] 投稿日:2017/01/21(土) 13 22 14.34 ID rPMu1A1Fa 1番目が酷すぎて他が霞む、こういうPLってまともなGMの元で普通の設定のTRPGできるのかな、PC不可のキャラしか選ばず却下したらずっと文句言って叩き出されそう 144 名前:ゲーム好き名無しさん (ワッチョイ 6f24-jsuU)[sage] 投稿日:2017/01/21(土) 13 24 11.22 ID AxollP4+0 反論しようとしたらPL1が「ああ、言うこと聞かないなら自害させます。それは困るよねGM」 もうこの時点で卓抜けても許されるよな というかコンベなら主催呼びつけるレベル 145 名前:ゲーム好き名無しさん (ワッチョイWW ffbe-oapM)[sage] 投稿日:2017/01/21(土) 14 46 24.90 ID XstvBY7K0 バカに凶器与えたらこうなるのか ていうかコンテンツにグチグチ言う前に最初の卓のPL1に対する報告厚くするべきでは 146 名前:ゲーム好き名無しさん (ワッチョイ 6f7b-3J89)[sage] 投稿日:2017/01/21(土) 15 20 09.05 ID ccrbXxHN0 [1/3] 品性下劣な人間に実質上他者を自由に出来る免罪符与えるとこうなるってサンプルだわな TRPGの悪意による弱さが一番出るところだけにGMもちゃんと危機予測に頭使えよと思うわ 147 名前:ゲーム好き名無しさん (ワッチョイ 6f7b-3J89)[sage] 投稿日:2017/01/21(土) 15 24 23.82 ID ccrbXxHN0 [2/3] 145 報告者的には立て続けにフェイトネタ扱う下手の横好きGMの所為でこのネタが嫌いになった、という部分が大きいのだろうよ 最初のエロゲシチュ困PLどもが論外なのは当然として 150 名前:ゲーム好き名無しさん (ワイマゲー MM67-jsuU)[sage] 投稿日:2017/01/21(土) 17 29 59.47 ID /ELggZDyM TRPGセッションそのものを人質にとる最低最悪のクズだからねえ コンベじゃなかったら即追放でしょこんなの …というか追放されてコンベにきたのか 152 名前:ゲーム好き名無しさん (ワッチョイ 230a-3qL8)[sage] 投稿日:2017/01/21(土) 17 47 55.82 ID HU99sMAr0 127 乙。そんなのに連続で当たるとは…大変だったな あとこの報告読んでもコンテンツ叩きとは思わんよ 元ネタがなんであろうと困が扱えば酷い事になる 困は手にした物全てを凶器に変えるからな(フェイトネタ) 155 名前:ゲーム好き名無しさん (ワッチョイ 6f8c-x36u)[sage] 投稿日:2017/01/21(土) 19 02 50.72 ID i9skEZkL0 [2/2] 145 蛇足ながら追記するよ。 シナリオ途中で、イレギュラーなサーバント(ステイナイトのギル様ポジ)が いるという情報を主催者側の人間から聞けて深く聞こうとしたときに そのNPCが「それにしても、美人なサーバントを呼んだもんだな。」と呟いていたのをPL1が思い出して、 「令呪を以て命ず、セイバー。スカートを上げてケツをこっちに向けろ」と高らかと宣言しやがった。 で、「セイバー くっころ」でググれば出てくる画像を「こんな感じ」とスマホで見せてまわった。 で知っている奴はGM含めて爆笑。PC1が「さぁ、これで全て話してもらおうか?」とNPCに詰め寄ったので。 GMが悪乗りし、シーンが変わって、NPCがタバコ吸いながら「フゥ…」と賢者モードになっているシーンから再開になった。 その時に俺も頭に来たんで「GM、騎士の誇り穢されたんでこいつ(PC2)殺していいですか?」と聞いたんですが、 そこで冒頭の「そっちがそういう態度に出るなら令呪で自害させます。それは困るよねGM」に繋がった。 PL1の事はコンベの主催に報告済み。きっちりブラックリストに入れてもらったから、二次災害は起こらないはず。 156 名前:ゲーム好き名無しさん (ワッチョイ 6f7b-3J89)[sage] 投稿日:2017/01/21(土) 19 14 52.79 ID ccrbXxHN0 [3/3] こんな筈じゃなかったGMも途中までは悪ノリに参加してたのかよ… 157 名前:ゲーム好き名無しさん (スップ Sd1f-uPXs)[] 投稿日:2017/01/21(土) 19 17 18.13 ID vp99BZdnd [1/4] 155 補足乙 GMも思いきり困だよ、それ 「こんな展開」に自分も加担してるんじゃん 「悪意に鈍感な奴は時として悪意ある奴並みに厄介なことがある」って見本だね 158 名前:ゲーム好き名無しさん (ワッチョイ c33c-SmTw)[sage] 投稿日:2017/01/21(土) 19 26 39.11 ID m7/C8ps70 気になるのが、その令呪とやらが必須の同人ゲーでもないのに 嫌な展開になっても令呪を無しにできないGM。 そんなに、自分の考えたルールとsituationが好きか(笑) 159 名前:ゲーム好き名無しさん (ワッチョイ 6f5b-3qL8)[sage] 投稿日:2017/01/21(土) 19 27 06.01 ID 5mvY8YiH0 どう考えてもGMとPLが共謀した結果なんだけど、どの辺が「こんな展開じゃない」だったんだろうなぁ 160 名前:ゲーム好き名無しさん (スップ Sd1f-uPXs)[sage] 投稿日:2017/01/21(土) 19 51 31.02 ID vp99BZdnd [2/4] 好意的に解釈して「こんな展開」が「誰がロストするか」 161 名前:ゲーム好き名無しさん (スップ Sd1f-uPXs)[sage] 投稿日:2017/01/21(土) 20 04 49.17 ID vp99BZdnd [3/4] 途中で送ってしまった 「こんな展開」が「誰がロストするか葛藤して欲しかったのにあっさり一人見捨てられた」って展開のことだとしよう それでも自分のサーヴァントの体を売らせるクソマスターのRPを許可した時点でこうなるに決まってる 落ち込みたいのはサーヴァントPL(報告者)の方だっつーの セッション潰したくないのは分かるが「自分の楽しみのために他人を嫌な思いさせていい」なんて思ってる奴が参加した時点で潰れてるようなもんなんだよなあ 自分の好きな作品の設定に従いたいのも分からなくもないけど、自分の好きな作品が嫌がらせの道具にされるのはいいのかと 162 名前:ゲーム好き名無しさん (ワッチョイ ff3c-SmTw)[sage] 投稿日:2017/01/21(土) 20 14 31.25 ID ntfNEWiT0 [2/3] クズと下手とか困とかそういう以前に、ただ単純に「気持ち悪い」の一言だなあ>画像を見せて回る もうその時点で遠慮なく「自害命令ですね、はい死んだ。俺は帰りますんであとご自由に」で退席して、 主催に報告した上で帰ってもいいレベル 164 名前:ゲーム好き名無しさん (ワッチョイWW a3c9-Q1sS)[sage] 投稿日:2017/01/21(土) 20 41 22.81 ID SBuNdzYL0 俺はFate未プレイだけど、友人はFate面白いけどエロシーンは邪魔って言ってたし、 アニメは見たけど18禁のシーンのあるゲームは未プレイって層も結構いるだろうから 元がエロゲなんだからエロ展開は当然覚悟しとけってのはおかしい 165 名前:ゲーム好き名無しさん (アウアウカー Sac7-7AoK)[sage] 投稿日:2017/01/21(土) 20 43 14.42 ID htPTH/xra [1/2] ぶっちゃけエロじゃない作品の方がもう九割以上だからな 166 名前:ゲーム好き名無しさん (ワッチョイ f37b-JQ1R)[sage] 投稿日:2017/01/21(土) 20 54 49.41 ID s/mPBfmF0 ナイトウィザードもエロゲ化されたんだから事前にNWやりますって言われてたら理不尽な扱いされても同情出来ないとな 170 名前:ゲーム好き名無しさん (ワッチョイ a37b-aDhR)[sage] 投稿日:2017/01/21(土) 22 19 06.02 ID LQ5icl6s0 [2/2] 運営に報告して出禁食らわせても怒られんよな R18って卓ならともかく絶対表記いれてないだろ 155グッジョブ 171 名前:ゲーム好き名無しさん (スップ Sd1f-uPXs)[sage] 投稿日:2017/01/21(土) 22 28 41.48 ID vp99BZdnd [4/4] エロゲが元ネタ以前にTRPGなんだからエロ妄想垂れ流す前に、やられた方がどう思うか想像しろって話だけどな 報告者以外にエロゲ原作と知って引いてたPLもいたんだし 引いてたPLに関しては補足見た後だと地味に可哀想だな なんか報告者以外ウケてた印象あるけど「知ってる奴はGM含め爆笑」てなってるからこの時ドン引きしてたと思われる スレ446
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君の声聞いた気がして 失われた時間さ迷う 存在さえ忘れられた この想いはどこへ続くの? 俺に立ち向かうすべての 相手は後悔するだろう 半端にウロウロするなら 何もせずにじっと見てな 「……イマジンが……!?」 「クソ……待て!!」 今、彼らの目の前で一体のイマジンが一人の女性の体の中へと入っていった。 もちろん中へ入るといっても、そのまま体内へ入る訳では無い。 イマジンは女性の体を真っ二つに割り、その中に現れた緑色の空間-過去-へと飛び込んだのだ。 二人はすぐに女性に近寄り、一枚のチケットをかざす。 そうすると、チケットにイマジンの姿と、過去の日付が記されていた。 「2004年、10月9日……。」 「……この日付に、覚えは?」 二人はチケットを見ながら女性に問い掛ける。 「…………!?」 だが、女性の様子がどこかおかしい。この日、彼女の身に何かが起こったのだろう。 「……この日に、何かあったんだな?」 「ば……化け物が……」 「化け物だと……?」 もう一度問われた女性は、恐る恐る言う。 どうやらこの女性は2004年の10月9日、「化け物」に襲われたらしい。 「(化け物だと……?)」 「……侑斗!」 「……ああ、わかってる!行くぞデネブ!!」 侑斗と呼ばれた少年は、すぐに元の寡黙な表情を取り戻し、「デネブ」と呼び返す。 次の瞬間、空を裂いて巨大な二両編成の列車……『ゼロライナー』が現れる。 Extra ACT.03「ACTION-ZERO」 「うーまーいッ!!これがショ・ミーンの味か!」 「あはは、剣君ホントに美味しそうに食べるね」 「ああ、なんせ俺は美味しそうに食べる事においても頂点に立つ男だからな!!」 剣は美味しそうに熱々の豆腐を頬張りながら、いつも通りの台詞を口にする。 現在、剣が食事をしているのは八神家だ。剣はなのは達と一緒に八神家で夕飯をご馳走になっている最中なのだ。 ちなみにメニューは寄せ鍋だ。 何故こうなったのかというと、数時間前に遡る事になる。 ……………… ………… …… 同日、03 05PM 今日は何事も無く学校も終わり、なのは達もあとは自宅へと帰るだけだった。 そんな時…… 「今日は久々にうちで鍋パーティーするねんけど、良かったらなのはちゃん達も来ぉへん?」 突然話題を振ってきたのははやてだ。 「「鍋?」」 「うん。もうすぐキャンプもあるし、久々に皆で晩御飯でも食べたいなぁって思ってん。楽しそうやろ?」 凄く楽しそうに、満面の笑顔で言うはやて。 そんなはやてを見たなのはとフェイトは顔を見合わせ…… 「「うん、喜んで!」」 こうして現在に致る訳である。 「ところで、主はやて……」 「ん?何や、シグナム?」 シグナムに話し掛けられたはやては、白菜を頬張りながら返事を返す。 「先ほどの説明で高町やテスタロッサがここにいるのはわかりました……ですが。」 シグナムは今度は冷静な面持ちで箸を置き…… 「何故この男までここにいるのでしょう?」 次にシグナムが睨んだのは凄いペースで鍋の中身を平らげていく剣だ。 「細かい事を気にするな!それよりこの白いヨーグルトは一体何だ!?」 「あ、それはヨーグルトじゃなくて、豆腐だよ。気に入ったの?」 「なにぃ……!?トゥーフーだとぉ!!」 フェイトに教えられた剣は驚いた表情で豆腐を見つめる。 「いや……剣くん、トゥーフーじゃなくて……」 「うまい!このトゥーフーとやら、気に入った!!」 「駄目だ……聞いちゃいねぇ。」 シャマルの言葉を遮り、一人で感動している剣に流石のヴィータも呆れた表情だ。 そんな時、ふとなのはの目はふとテレビの画面へと移る。 「あれ……?」 「どうしたの、なのは?」 「あのドラマに出てるの……」 画面に映し出されているテレビドラマには、どこかで見覚えのある人物が出演していた。 『悪いオーラが見える……』 「トゥーフー……あっさりとした味の中にも独特のコクと奥深さがある…… この高貴な味こそ、ノブレス・オヴリージュ!!」 なのは達はテレビ画面に映る人物と、目の前で美味しそうに豆腐を食べながら訳のわからないことを言う剣を見比べる。 「あはは……そっくりだね……」 「世の中には三人同じ顔がおるって言うけど……」 「うん、ホントに似てるねぇ……」 三人は剣とドラマの人物を比較しながら箸を進める。 すると…… 「なぁ、この難波って奴、天道総司に似てねぇか?」 ヴィータの言葉に固まる一同。 なんと、テレビ画面には剣のそっくりさんだけでは無く、天道のそっくりさんまで写っているというのだ。 「……そんなアホな~」 「う、うん。そうだよヴィータちゃん、いくらなんでもキャラが違いすぎるよ~」 「きっとただのそっくりさんだよ?」 「……や、やっぱそうだよな?」 一同はまた元の笑顔を取り戻し、楽しい夕飯の時間を再開した。 剣だけはテレビには目もくれずに嬉しそうに鍋-というより豆腐-を食べ続けていたが…… 「侑斗、さっきの女の人が言ってた化け物って……」 「……さぁな。既に2003年に別のイマジンに出くわしていたか、それとも……」 ゼロライナー車内、侑斗とデネブはさっきの女性の言っていた化け物について考えていた。 「まさか……ワーム?」 「ああ。奴らは1999年には地球に現れている。2004年に奴らが人を襲っていてもおかしく無い」 「でもワームに襲われたなら、あの女の人が今生きてるのはおかしいんじゃないか?」 「あぁもう……知るかよそんなこと!行けばわかる!!」 苛々していた侑斗はデネブを怒鳴り付ける。 「そ、そうだな……ごめん、侑斗」 「……ったく!」 シュンとした態度で謝るデネブに、侑斗は「フン!」と不機嫌そうにデッキから外の景色を眺める。 存在しない存在を 証明し続けるためには ゼロというレール駆け抜け 止まる事など許されない…… 「(侑斗……)」 デネブは不機嫌そうな侑斗を見つめる。 「(孤独だけを強さにする心を……痛い程分かってる……)」 こんな性格のせいか、侑斗には昔から友達ができないのだ。 そんな侑斗を心配し、また思いやるデネブはまさに、父親の様な存在だろう。 「(……だから俺はいつでも侑斗と一緒に戦う……。)」 それがデネブが心に誓う、戦う理由だ。 一方の八神家では、過去の思い出話に花を咲かせていた。 勿論剣はそんな話を全く知らないために、興味津々といった感じだ。 はやてもこの頃のなのは達の話にはあまり詳しくは無い。その点でははやても興味津々と言えるだろう。 「……そのジュエルシードという宝石が犬や植物に取り付くというのか?」 「うん……ユーノくんと初めて会って、レイジングハートを受け取って……」 なのはは3年前の自分の物語を話し始める。 ユーノの世界で発掘された21個のジュエルシードが、事故でこの世界に散らばってしまったこと。 一人ぼっちでジュエルシードを回収しようとしていたユーノの手伝いをし、魔法少女となったこと。 なのはの丁寧な説明に剣やはやて、それからヴォルケンリッターの一同も次第に話に引き込まれていく。 「……それでね、こんなことがあったんだ」と、一つのエピソードを語り始めるなのは。 それはなのはがまだレイジングハートやバリアジャケットを使いこなしていなかった時期の話。 「一つ目のジュエルシードを封印してすぐの話なんだけどね……」 なのははそう言い、二つ目のジュエルシードの回収時の出来事を思い出していた。 そして、今からなのはが話そうとする歴史は、こうしている間にも改変されようとしているのだった…… -2004年10月9日- 「はぁ、はぁ……」 一人の女性が、ランニング中に海鳴市のとある神社に立ち寄った時の事だ。 「……っ!?」 神社に入った瞬間、女性の足が止まった。 なんと、目の前の子犬が、突然巨大な化け物-犬獣-へとその姿を変えたのだ。 犬獣は巨大な漆黒の体に、4つの瞳をギラつかせ、まさに化け物といった印象の姿をしている。 「あ……!?」 学校から下校途中のなのはが何かの気配を察知する。 「(ユーノくん、今のって!)」 「(ジュエルシードが発動した!すぐに向かって!!)」 「……うん!」 念話でユーノと連絡を取ったなのはは、すぐにジュエルシードが発動した場所へと走り出した。 吠える犬獣を前に、ランニングをしていた女性はついに意識を失ってしまった。 そんな女性の体から大量の白い砂が零れ落ち、白いイマジンが現れる。 白いイマジンは、フクロウの様な印象の外観をしており、両肩からは翼が生えている。 このイマジンは、取り付いた女性のイメージする「フクロウと鳥たち」のフクロウをモチーフとした『オウルイマジン』だ。 「何だ……コイツは?」 犬獣を見たオウルイマジンは、最初は少し驚いたが、すぐに自分のするべき事を思い出す。 この化け物が勝手に暴れてくれるなら好都合だ。オウルイマジンはその場を飛び去ろうとするが…… 「何……!?」 凄まじい轟音を響かせて現れたのは、漆黒の列車-ゼロライナー-。 その列車に逃走を遮られたオウルイマジンは、「今度は何だ!?」という表情でゼロライナーを見つめる。 すると、ゼロライナーから一人の男……『侑斗』が降り立ち…… 「貴様……さっきの男か。」 「ったく、手間掛けさせやがって……!」 侑斗は苛立ちながら『ゼロノスベルト』を手に構え、それと同時にゼロライナーもいずこかへと姿を消す。 その時だった。 「ぐぉおおおおおおおおッ!!!」 「うわッ!?」 突如として巨大な犬獣が侑斗に襲い掛かってきたのだ。 まったく、この手の敵があえて悪者には襲い掛からずに、良い者側に牙を剥くのはもはやセオリーと言っても過言では無いだろう。 「クソ!なんなんだよコイツは!!」 『侑斗、アレ!!』 「な……!?」 突然襲い掛かってきた犬獣に悪態を付いていた侑斗は、どこからか聞こえて来るデネブの声に反応し、神社の入口辺りを見る。 そこにいるのは、まだ幼いどう見ても小学生な少女……高町なのはだった。 しかもタチの悪いことに、犬獣はなのはへと走りだし、イマジンはどこかへと逃げようとしている。 『どうする、侑斗!?』 「んなモン決まってんだろ!!」 デネブの問いに即答する侑斗。今なのはを見捨てても被害に合うのはなのはだけだ。どうってことは無い。 だがイマジンを逃がせば、大勢の人間が死んでしまい、下手をすれば世界を消滅させる可能性だってある。 侑斗はイマジンが逃げようとする方向へと走りながら、ゼロノスベルトを腰に装着する。 「デネブ、カードは残り何枚だ!?」 『残り16枚だ!』 「チッ……まだしばらくは大丈夫か……!」 言いながらゼロノスベルトの上部レバーを右側へとスライドさせる。 「変身!!」 『Ultair Form(アルタイルフォーム)』 侑斗は腰のカードケースから取り出した『ゼロノスカード』をゼロノスベルトへ装填-アプセット-する。 次の瞬間、侑斗の体を二本のレールの様な物が走る。 「なのは、早くレイジングハートを起動して!」 「えぇ……!?き、起動って何だっけ!?」 なのはは目の前に迫る犬獣に、完全にパニクっていた。 しかもこの当時のなのはは、まだ一度しか変身した事が無い。咄嗟に変身しろと言われても無理な話だ。 「……ッ!?」 なのははついに目前まで迫った犬獣に、目をつぶった。 「(間に合え……!!)」 侑斗……いや、『仮面ライダーゼロノス アルタイルフォーム』は、飛び去るイマジンとの距離を詰めていた。 あと少しで追いつける。 ゼロノスとイマジンとの距離を見れば、誰もがそう思うだろう。 しかし、ゼロノスの目的はイマジンでは無かった。 なんと、もう少しで追いつけるというのに、途中で立ち止まってしまったのだ。それも猛進する犬獣の目の前でだ。 「うぉおおおおおりゃあああ!!!」 ゼロノスそのままゼロガッシャーをサーベルモードに連結し、犬獣の突進を受け止める。 「え……何……!?」 なのはには何が起こったのかがわからなかった。 突然、雷と一緒に誰かが割って入ったと思えば、目の前で緑の装甲に身を包んだ戦士が自分を守るように犬獣を受け止めているのだ。 『Set Up』 さらに、なのはが持っていた赤い飴のような宝石-レイジングハート-が輝き、自分の体を光が包む。 起動パス無しでレイジングハートを起動させた事には、流石のユーノも驚いているようだ。 だが、それよりも気になるのが、目の前の緑の戦士……ゼロノスだ。 「(もしかして……管理局の人かな?)」 ユーノがそんなことを考えているとも知らずに、ゼロノスは犬獣を弾き飛ばし、ゼロガッシャーを肩に乗せる。 俺に立ち向かうすべての 相手は後悔するだろう 半端にウロウロするなら 何もせずにじっと見てな 「最初に一つ言っておく……!俺は今、か~な~り!機嫌が悪い!!」 まさかこんなイマジンでも無い相手に貴重なカードを使う羽目になるとは思っていなかったのだ。 『侑斗、偉い!侑斗なら女の子を助けると思ってた!!』 「うるっさい!!」 苛々していた侑斗は、柄にも無い事を言われ、さらに逆ギレする。 「何?この人達……?」 「さ、さぁ……?僕にもわからない……」 なのは達もゼロノスの登場に戸惑っているようだ。 「お前も、逃げれると思うな!!」 ゼロノスはゼロガッシャーをボーガンモードに連結変形させ、オウルイマジンに向けて連射する。 「何ッ!?」 ゼロノスが発射した全ての光弾に当たったオウルイマジンはすぐに地面に落下する。 さらに侑斗は、ちらっとなのはを見て、「コイツ魔導師だったのか……」とようやく気付く。 ならばあの犬獣は魔導師であるなのはに任せても大丈夫だろう。 「おい、そこの魔導師!あのイマジンは俺が殺る!その化け物はお前に任せた!!」 「あ……え?イマジン……?」 ゼロノスはなのはに向かってそう叫んだ。もちろんこの時代のなのはにはイマジンなんて言葉に聞き覚えは無い。 「とにかく、邪魔だけはすんなよ!!」 「う、うん……わかった!」 その言葉を聞いたゼロノスは、すぐに落下したオウルイマジンへと走り出した。 「なのは、とりあえずジュエルシードを!」 「……うん!!」 取り敢えずなのはは、ユーノの言う通りにレイジングハートを犬獣へと向ける。 ちなみにこの当時のなのはには技と言える技はほとんど無い。 「ぐおおおおおおッ!!」 さっきのゼロガッシャーの攻撃で吹っ飛んだ犬獣は、再び体勢を立て直し、今度はなのはへと飛び掛かる。 「わっ……!?」 なのはは咄嗟にレイジングハートを振り上げた。 すると、レイジングハートは自動的にプロテクションを発動。そのまま犬獣を弾き飛ばす。 「大丈夫、なのは!?」 「うん……あんまり痛くは無いかも」 なのはの安否を心配するユーノに、なのはは大丈夫だと主張する。 そして、今が封印には絶好のチャンスだ。 「なのは!」 「うん、封印っていうの、すればいいんだよね?」 『Sealing Mode』 なのはの声に反応したレイジングハートは、再び自らの意思で封印用モードであるシーリングモードに移行する。 同時にレイジングハートからピンクに輝く翼のような光が現れる。 「逃げんな!戦え!!」 ゼロノスは回避を続けるオウルイマジンに、ボーガンモードにしたゼロガッシャーを連射する。 「く……!管理局の犬め!」 「何だとぉ!?冗談じゃない!誰が管理局の犬だ!!」 オウルイマジンの一言により侑斗はさらに激怒したらしく…… 「おらぁッ!!!」 「な……!?」 一気にジャンプで飛び上がったゼロノスは、オウルイマジンの両足をがっしりとホールドし、そのまま地面にたたき付ける。 「この野郎!」 そして再びゼロガッシャーをサーベルモードに変形させ、オウルイマジンに振り下ろす。 「うわっ……ちょッ……クッ……!!」 それも一度では無い。倒れたオウルイマジンに何度も何度もゼロガッシャーを振り下ろすのだ。 さすがにその光景はデネブも見兼ねたらしく…… 「侑斗……!!」 「はぁっ!おりゃあ!!」 デネブは侑斗を止めに入るが、それも聞く耳を持たずにゼロガッシャーを振り下ろし続ける。 「侑斗……落ち着け!侑斗!!」 そこでデネブは無理矢理ゼロノスをオウルイマジンから引き離す。 「……何すんだよッ!!」 デネブの余計な行動にいらついたゼロノスはデネブにヘッドバットをかますが、もちろんあまり効いていない。 「駄目だ侑斗!こんな戦い方、卑怯すぎる!」 「あぁもう……面倒臭いな!じゃあお前やれよ!!」 「了解!!」 デネブは少し嬉しそうにそう言うと、すぐにゼロノスの背後に立った。 そしてゼロノスはベルトからカードを抜き取り、再びレバーをスライド。さらにもう一度カードをアプセットする。 『Vega Form(ベガフォーム)』 機械音声が『ベガフォーム』と告げ、デネブがゼロノスと合体。 肩にはデネブの手……ゼロノスノヴァが装着され、胸についたデネブの顔が特徴的だ。 やがて頭に装着されたドリル型電仮面は、星型に展開。これが、『仮面ライダーゼロノス ベガフォーム』だ。 いつかたどり着くだろう すべての謎 説き明かされ そして、ゼロノスがベガフォームになった途端に、ゼロノスが立っていた地面が「ズンッ!」と沈み込む。 止まったままの時計の針 動くさきっと さらに強い風が神社全体に吹き込み、周囲の木々がざわつく。ゼロノスのマントもそれに合わせてはためいている。 もう任せておけない 悲しい歴史いらない ゼロノスはゼロガッシャーを構え直し、オウルイマジンを睨みつける。 そのためだけに見せる本当の強さ……『ACTION-ZERO』! 「最初に一つ言っておく!!」 「お前もかよ!?」 「正直、お前よりもあの犬みたいな化け物の方が気になる!!」 「なら、あの犬をなんとかしにいけよ!?」 デネブの人格が表に出た状態のゼロノスは、侑斗の真似か決め台詞を言う。 まぁ少し間が抜けているイメージがあるのもデネブの特徴だ。 オウルイマジンはツッコミながら羽手裏剣をゼロノスに飛ばすが…… 「……わかった!!」 デネブはオウルイマジンの言葉を「早く自分を倒して、あの女の子を助けろ」と勝手に解釈。 羽手裏剣を全てゼロガッシャーでたたき落とす。 「チッ……!」 オウルイマジンも少し悔しそうに再び羽を飛ばそうとするが、ゼロノスはそれを許すつもりは無かった。 「これで終わりだ!」 『Full Charge(フルチャージ)』 ゼロノスは一瞬の内にゼロガッシャーをボーガンモードに変形、さらに ゼロノスベルトから取り出したカードをゼロガッシャーのスロットに押し込む。 同時に、ベルトの黄色いV字マークが輝き、ゼロガッシャーに光が集まる。 「……な、何!?」 うろたえるオウルイマジン。ゼロガッシャーの中心は、稲妻のような光を集めながら自分を狙っているのだ。 「クソ……フン!」 オウルイマジンはそれに対抗し、今までに無い程に無数の羽手裏剣を飛ばすが…… 「はぁッ!!」 ゼロノスはそれを無視し、光の矢と化した閃光を撃ち出す。 そのまま矢-グランドストライク-は一気に全ての羽手裏剣を撃ち落とし、オウルイマジンを貫通。 「うわぁあああ……!?」 そして、オウルイマジンの体はV字型に発光し、次の瞬間には爆発していた。 『あの魔導師はどうなった!?』 侑斗はイマジンの撃破後、すぐに犬獣と戦闘していたなのはを思い出す。 「リリカルマジカル、ジュエルシード・シリアル16!封印!」 『Seal』 調度ゼロノスがイマジンを撃破した頃、なのはは犬獣に取り付いたジュエルシードを封印しようとしていた。 犬獣はなのはが放った桜色の光に拘束され、身動きが取れない状態にある。 なのはが封印の呪文を唱えた途端に、犬獣から青く輝く小さな光が飛び出した。 青い石……ジュエルシードは吸い込まれるようにレイジングハートに接近する。 後は封印するだけだが、そう思い通りには行かない。 「え……何!?」 なんと、ジュエルシードはレイジングハートに封印されずに、倒したはずのオウルイマジンの体に吸い込まれたのだ。 そしてイマジンの体は一気に大型化し、まるで鳥のような巨大な化け物へと変貌する。 名付けるとするならば『シードギガンデス ヘヴン』とでも言ったところか。 「まさか……ジュエルシードがアイツの願いに反応した!?」 「そんな……!?」 なのは達もこの意外な展開には面食らっているようだ。 「侑斗!コイツ……ただのギガンデスじゃない!」 『んなこと見りゃ分かる!多分、あの青い石の影響だ!』 侑斗達も、この状況を分析。こうなった場合の対象方とは…… 『ゼロライナーだ!!』 「わかった、侑斗!」 次の瞬間、またしてもどこからかゼロライナーが現れ、ゼロノスは急いでゼロライナーに飛び乗る。 「あの人達……何する気なのかな?」 「戦うのかな?あの電車で……」 なのは達にしてみればもう何がなんだか分からないといった感じだ。 特になのははまだ魔法すら馴染みが無いというのに、二回目の実戦で いきなりこんな「戦う列車」を見てもそう簡単に納得が行く訳が無い。 そうこうしてるうちに、すぐにゼロライナーの先端は180度回転し、ドリル状に変形する。これが制御車両でもある『ゼロライナードリル』だ。 『一気に決めるぞ!』 「ああ、わかってる!」 ゼロライナー車内、マシンゼロホーンというバイクに跨がりながら二人のゼロノスが息を合わせる。 シードギガンデスはそんなゼロライナーへ向けて無数のニードルを発射するが…… 「レイジングハート!」 『Protection』 すぐにプロテクションを作動させたなのはが介入。それらを全て弾き、ゼロライナーを守る。 『そこの魔導師!』 「え……!?」 「なのはの事だよ!!」 突如、ゼロライナーから聞こえた声に困惑するが、ユーノのお陰ですぐに自分の事だと気付く。 ちなみに当然の事だが、ベガフォームに変身しているからには聞こえる声もデネブの物である。 「な、なんですか!?」 『一気にゼロライナーで突っ込む!キミはその隙にあの宝石を封印してくれ!!』 「えと……わかりました!」 威勢よく返事を返すなのは。そうと決まれば、なのはもすぐに行動を開始する。 まだレイジングハートはシーリングモードのままだ。このままゼロライナーが攻撃する チャンスを作るために、シードギガンデスを拘束する。 「レイジングハート!!」 『Standby ready』 なのははすぐにさっきと同じように桜色の光でシードギガンデスを拘束。 だが…… 「う……さっきのより強い……!!」 流石にイマジンに取り付いただけに、さっきの子犬に取り付いていた犬獣とはパワーが段違いなのだ。 「……早くしないと、拘束が解ける!」 『デネブ!今のうちに一気に決めろ!!』 「任せろ、侑斗!」 強き者に強き力 言っておく「かなり強いぜ!」 ゼロライナーは先端のドリルを高速回転させながら、一気にシードギガンデスへと突っ込む。 極めつけのVega Ultair 始まるBattle『ACTION-ZERO』! 「行ける……!!」 シードギガンデスに突き刺さるドリルを見たユーノも、ゼロライナーの勝利を確信する。 強き心強き願い 重なる時 無敵になる 『ブチ抜け!!』 侑斗もシードギガンデスの腹部を貫いてゆくドリルに、気合いを入れる。 デュアル仕様Vega Ultair 繰り出すAttack『ACTION-ZERO』 そして、ゼロライナーはシードギガンデスを貫通。一気に車両全体がシードギガンデスの体を突き抜ける。 「今だ!」 「うん、今度こそ……!リリカルマジカル、ジュエルシード・シリアル16、封印!!」 なのはは、桜色の翼が生えたレイジングハートを、ドリルによって風穴を開けられたシードギガンデスにかざす。 強き者重なれば…… 極めつけのVega Ultair ACTION-ZERO そのままシードギガンデスからジュエルシードが取り出され、レイジングハートに吸収される。 後は残ったギガンデスヘヴンを片付ければ終わりだ。 ゼロライナーはUターンし、再びギガンデスに突進。そのままギガンデスを打ち砕く。 それは最強の意味…… デュアル仕様Vega Ultair ACTION-ZERO…… そうしてゼロライナーは、なのは達の前で停車することなく、再びいずこかへと消え去っていったという。 全てが終わった後、神社は何事も無かったかのような平穏を取り戻す。 イマジンに取り付かれていた女性も、意識を取り戻して自宅へと帰ったらしい。 「えと……何はともあれ、これでよかったのかな?」 「うん!完璧だよ、なのは!!」 二人はゼロライナーが消えた夕焼け空を眺めながら、笑顔で顔を見合わせた。 そんな時、何かに気付いたなのはは足元に落ちていた物を拾い上げる。 「何かな、これ?」 「キャンディ?」 「やっぱり、そうだよね?」 なのはの問いに答えるユーノ。それはどう見てもキャンディだ。 なのははそのキャンディをにぎりしめ、再び空を見上げる。その表情はとても爽やかだ。 「また、会えるかな?」 「うん。きっと……そのうち」 ユーノは笑顔で答えた。 「……と、まぁこんな話があった訳で……」 こうして話は現在に戻る。 既に鍋は全員にほぼ完食されており、今は平和な雑談ムードだ。 「戦う電車かぁ……ってそんなアホな!」 「お前、頭でも打って幻覚でも見てたんじゃないか?」 一同は黙ってなのはの話を聞いていたが、はやてとヴィータが真っ先にコメントする。 「でも、その話が本当ならまた会えるかもね。その電車の人に」 「うん!そうだよね?」 否定的なヴィータに対し、フェイトは楽しそうに言う。だが、そこでなのはは一つの異変に気付く。 「……剣くんは?」 なのはの言葉に一斉に剣を見る一同。すると…… 「うん……マイラヴァ~……ミサキーヌぅ……」 「「「……寝てる?」」」 なんと、幸せそうな顔をして眠っているのだ。 「にゃはは……私の話も長かったし、仕方ないかな?」 苦笑いしながら言うなのは。 「疲れてるみたいだし、休ませてあげよっか」 「うん、そうやな。後でじいやさんに連絡しといたらええか」 フェイトとはやてもそれに返事を返す。剣がどこまで話を聞いていたのかは不明だが、まぁそこはいいとしよう。 鍋も食べ終わり、なのははふと八神家の窓から夜の空を見上げた。 「ベガと、アルタイル……か」 あの緑の戦士は今もきっとどこかで戦っているのだろう。 闇の中で唯一光る「真実」を守るため…… ゼロライナーは今日も時の中で旅を続ける。 約束の場所まで…… 戻る 目次へ 次へ
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朝、お母さんが起こしてくれる。 お母さんと一緒にごはんが食べられる。 お母さんが休日に、遊びに連れて行ってくれる。 それはとても幸せで、とても切ないこと。 ◇ ◇ ◇ フェイト・テスタロッサがこの世界に招かれたのは、母の命令を受けジュエルシード回収に赴いた直後のことであった。 この世界には、フェイトが望んでやまなかった母からの愛があった。 だがこの世界の母は、あくまで仮初めの存在。フェイトが真に愛されたい存在ではない。 フェイトの目的はあくまで、母のために働くことだ。 不可抗力とはいえ任務を果たさず失踪したことで、母は怒っているかもしれない。 だがあらゆる願いを叶える聖杯となれば、それは捜索を命じられたジュエルシードに匹敵する秘宝だ。 持ち帰れば、きっと母も喜んでくれるだろう。 そして、昔のような優しい母に戻ってくれるかもしれない。 ゆえにフェイトは、聖杯戦争に乗ることを決意していた。 他人の命を奪うことに、良心の呵責がないわけではない。 だが他者を踏みにじってでも、フェイトはこの戦いに生き残りたかった。 本来のパートナーであるアルフは、この世界についてきていない。 仮初めのアルフならばいたが、この世界の彼女は何の能力も持たないただの犬だった。 今、戦力となるフェイトの味方は彼女が召喚したセイバーのサーヴァントしかいない。 ◇ ◇ ◇ 「今日も行くよ、セイバー」 深夜、フェイトは窓から抜け出して他の参加者を探しに出かける。 セイバーは彼女の言葉に無言でうなずき、その後に続いた。 フェイトはまだ、このセイバーの声を聞いたことがない。 別に障害や制約でしゃべれないわけではなく、極端に無口なだけらしい。 とにかく、そのせいでフェイトはセイバーについて多くを知らなかった。また、興味も無かった。 彼がどんな世界のどんな人物だろうと、聖杯へのどんな願いを持っていようと、知る必要はない。 自分に従ってくれるなら、そんなことはどうでもいい。 マスター権限で確認できるステータスさえ把握していれば、それだけで十分だ。 フェイトはまだ、セイバーの真名を知らない。 腰に妖刀を下げたかのサーヴァントの名は、クロノ。 正しい歴史ならば将来彼女の義兄となる男と、同じ名前を持つ剣士であった。 【クラス】セイバー 【真名】クロノ 【出典】クロノ・トリガー 【属性】中立・善 【パラメーター】筋力:B 耐久:C 敏捷:B 魔力:B 幸運:C 宝具:A 【クラススキル】 対魔力:C 魔術に対する抵抗力。 魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。 騎乗:B 乗り物を乗りこなす能力。 魔獣・聖獣ランクの生物は乗りこなせない。 【保有スキル】 星の開拓者:EX 人類史のターニングポイントになった英雄に与えられる特殊スキル。 あらゆる難航・難行が、「不可能なまま」「実現可能な出来事」になる。 セイバーは人類史そのものを書き換え、滅亡から救った英雄である。 天魔法:B 雷や聖なる力を操る魔法。 セイバーは生前に修得した全ての魔法を使えるが、クラス制限により威力は減退している。 対エイリアン:B 宇宙からの侵略者を討伐した逸話に基づくスキル。 宇宙より地球に訪れた者に対し、与えるダメージが増加する。 【宝具】 『にじ』 ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人 「太陽石」と「虹色の貝殻」という、二つの秘宝の力を使って生み出された妖刀。 この世のものとは思えぬ切れ味を誇る。 またその魔力により使い手は感覚を研ぎ澄まされ、無意識のうちに防御の弱い部分を突けるようになる。 これにより、与えるダメージはさらに増加する。 『死の運命ねじ伏せる現し身(ドッペルくん)』 ランク:A 種別:対人宝具(自身) レンジ:― 最大捕捉:1人(自身) 死の運命を改変し生き延びたという逸話が、その際に使われた人形の形を取って宝具となったもの。 致命傷を負う瞬間に人形が本人と入れ替わり、死の運命を回避する。 発動すれば必ず破壊されるため、一度しか使うことができない。 【weapon】 冒険で使用していた装備一式 【人物背景】 カルディア暦1000年の世界で母と共に暮らしていた、ごく普通の青年。 だが偶然か運命か違う時間に移動する力を手に入れ、仲間たちと共に様々な時代で冒険を繰り広げる。 そして旅の果てに、1999年に世界を滅ぼす宇宙よりの悪意・ラヴォスと戦い、これを打ち倒した。 【サーヴァントとしての願い】 カルディア王国が滅ぶ未来(クロノ・クロスへ繋がる歴史)を消し去る。 【マスター】フェイト・テスタロッサ 【出典】魔法少女リリカルなのは 【マスターとしての願い】 聖杯を母に届ける。 【weapon】 ○バルディッシュ フェイトが愛用するインテリジェントデバイス。 斧や鎌として使用できる。 【能力・技能】 ○ミッドチルダ式魔術 飛行や魔力を電撃に変換しての攻撃などが可能。 【人物背景】 魔術師プレシア・テスタロッサの娘。 母の命を受け、持ち主の願いを叶えるという秘宝「ジュエルシード」回収のため地球を訪れる。 その正体はプレシアの実子・アリシアの記憶を移植されたクローンであるが、本人はその事実を知らない。 今回は高町なのはと出会う前から参戦している。 【方針】 聖杯狙い。
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「じゃあよ、カルラは?」 「俺はアリ。見た目と同じで凄いよ。彼女」 「僕も・・・・・アリ・・・・」 「えー、まー確かにツラもスタイルも良いけどさ、アイツ軽く革新(○チガイ)入ってんじゃん!ナシ!」 どん百姓の馬鹿と、馬鹿に轢きずられるコーンスと、テラネの肥沃な大地が産んだ大馬鹿。 馬鹿の馬鹿による馬鹿のための最高首脳会談。今日のお題は「コイツならヤれる?ヤれない?」 「次ー。ユーリス」 「アリ。以外に積極的、と思う。」 「僕・・・・・アリ・・・・」 「顔だけならアリだけどさ、ナシだろぉ。だってアイツカルラとは別のタイプの革新(キ○ガイ)だし。」 「えー、じゃあ、次。ザギヴ姉さん」 「アリ!大アリ!マジお願いしたいよね!」 「・・・・・・アリ。」 「無論。俺もアリ!おっ、全3票!!ついに決まりが来た! つーかさ、ナッジさっきから全部アリだな。溜まってんの!?」 「ちっ違うよ!だってナシなんて失礼じゃないか!!理想が高いんだよヴァンは!ねぇ、チャカ?」 「うん。ザギヴさん以外全部ナシだよね。なーんか理由つけて」 「いいじゃんよ高くて、理想!理想は高ーく持たんとナッジくーん。ところで、ルルアンタ」 「・・・・・・・ア、アリ」 「ほら!ヤバイって、ありゃ犯罪だよ!お前そのうちエルファスって言ってもアリって言うぞ!」 「あー、ハイハイ。ナッジにヴァン。俺からも行くよー。フェティ」 「ナシダネ!!×3」 「ちょっとアンタ達。さっきから何してんの、アタクシの尊さについてでも語ってるのー?」 振り返ると、今のお題、フェティがエプロン姿で館の主オルファウスを抱き締め、訝し気な表情で覗いていた。 「ご飯よ。アンタ達みたいなギガど下等生物にも餌を用意したアタクシの慈悲に感謝なさい。」 言うより早く、ヴァンはもともとオルファウスの寝床であったベットを飛びだし、一目散にリビングへと跳ねていった。 「ああ、私のお布団が・・・・」 神聖王国暦1204年10月 すでに、獅子帝ネメアが亜空間にほうり出されてから半年が過ぎようとしていた。 とは言うものの、リーダーである無限のソウルを持つ者が「大丈夫、生きてんじゃない?」の鶴の一声で 完っ璧に放置しきっている状態のまま。のほほんと時だけが過ぎていた。 その間、エンシャントの住民消滅等の大事件が有ったが、概ね彼等には「平穏」な毎日が過ぎ去っていた。 「ちょい!カーチャン!何で俺のだけこんな飯少ねーんだよ。ナッジの半分も無いじゃん!」 「ウルサイわね!じゃあアンタはナッジやルルみたくキノコ拾いしてきた!? フェティみたく料理してくれた!?チャカみたく芋や小麦を持ってきてくれた!?」 と叫ぶのはケリュネイア。そもそもアンタの母親になった覚えは無いとぼやく。 仕方なく器に入った芋とキノコのスープを飲み干す。 現在、この猫屋敷には居候を含めて6人と2匹が共同生活を強いられていた。 もともと住人であったオルファウスとネモとケリュネイアに加え、 帰る場所の無いナッジ、まだ帰るわけにいかないフェティ、帰る必要の無いルルアンタと、ただ帰らないヴァン。 そして丁度穀物の収穫が終わり、おすそわけに来たチャカ。 チャカは疲れた顔でスープをすする。 「今年もさー、ネーチャン全然手伝ってくれねーの。」 「え、今年は収穫時期は特に何もイベントらしいイベント無かったよね?」 「突然さ、ニイサンと婚前旅行だーって、姿暗ました。」 「あー、『ゴリ』とレムレム兄やん。ホンット奴等もテキトーだよなー」 口でスプーンをくるくる廻すヴァン。傍らでネモと遊ぶルルアンタを見ながら、 あーっ、つっまんねーなー。なーんかこう俺の熱いハートを焦がすイベントはねーかなー。 バキッと柄杓がヴァンのデコを直撃する。「食べたら片づけなさい!」とケリュネイア。 いそいそ片付けをしながら、洗い物をするフェティとケリュネイアの尻を見比ていた。 フェティの小振で締まったお尻と、ケリュネイアの大きめで肉付きのよいお尻。 どっちもナシにはしたけど、あーっ、こんな良い女が近くでケツ振ってんのに、何で俺等は童貞なんだーっ。 とムシャクシャ。 「そろそろじゃないんですか、ケリュネイア。」 「あ、そうね父さん。今呼ぶわ」 ブゥンという眩しい光を放ち、リビング中央に配置された転送機から見覚えの有る黒いミニスカートが帰ってきた。 「お帰りザギヴ。どうだった?」 「駄目ね。アキュリースだけじゃなくて近くの漁村まで廻ってきたけど、無理、出せないそうよ」 「やはりそうですか。確かにワッシャー海賊が無理なものは他も無理というわけですね。」 「ええ。イークレムンからもお願いしてもらいましたけど、今の海の荒れ具合の原因は、 ダレカサンがお戯れに海王様を殴り殺したのが原因じゃないかって最後に嫌味言われてきました。」 全員、特にチャカが大きく頷くと、ザギヴとケリュネイア「だけ」が大きな溜め息をついた。 「兄さん・・・・心配だわ。闇の門の島までの足も無いから・・・・」 「ネメア様・・・・・」 鼻をほじほじ、先ほど最高得票数を獲得したザギヴを眺めるヴァン。 「帰ってきたばかりで悪いんだけど、アミラルまでお願いできるかしら。1週間ぐらいで戻るから」 「ええ、アミラルからじゃ遠回りになるけど、方法も無いものね」 と、ケリュネイアが転送機に手を翳そうとした瞬間。 「ア、ジャストモーッッッッメンツ!!!!」 馬鹿。基いヴァンが、突然ケリュネイアとザギヴの間に入り込んで制止した。 「ちょいちょいちょーい。俺もアミラル行くーっ!!だって姉さんアミラルはロストール圏よ! 元、とは言えディンガルの将軍様が闊歩してたら悪い冒険者に捕まっちゃうよ!俺ボデーガードで連れてってよ」 フゥン、とザギヴは鼻で溜め息をつく。「結構よ。あなたに来てもらわなくても自分の身は守れるわ。」 「そんなこと言わないでさ。あ、大丈夫。ナッジとチャカも連れてっから!」 ええっ!とヴァンのいきなりの発表で、驚くナッジと、まぁいいかな?という表情のチャカ。 「ちょっと!ヴァン勝手に決めないでよ!僕まだ他所行きの用意もしてないし・・・・」 とナッジが慌てると、そのままナッジとチャカの肩を両脇に抱えて、3人で頭をゴツンとぶつけて 「ちょい、聞け。俺すっげえこと思いついた。」とコソコソ話。 「なっ、何?何?変なことならイヤだよ・・・・・」 「俺、だいたい予想付いた」 「ザギヴ姉さんとアミラル。行こうぜ。何ってったて最高得票だぜ!これほどおあっつらえ向きは無ぇって」 「何?さっきの!?」 「オウ!第1回!アユテラン杯争奪、チキチキ『姉さん、僕のチンコがソリアスです』大会開催だぜ!」 「あの、ケリュネイア、早く送ってもらえないかしら。」 ザギヴがうんざりした表情で促すと、ケリュネイアは両手を広げて訴える。 「まぁ、あの馬鹿の言うことも確かだし、危険かもしれないから、連れて行ってよ。ね。ね。」 本心はこうだ、ナッジとチャカは良いとして、無駄飯食らいの馬鹿の食い扶持を減らしたい、 ザギヴには悪いがこの際1週間ほど子守りを放棄したいから、とのこと。 「ハーイ!決定!決定!ナッジもチャカも行くからさ~!どーんとラドラスにでも乗った気分でいてよ!」 「お願い。早く送って」 「ごーめんなさーいザギヴ!ホント。いいじゃない楽しいわよ。みんなで行くのも」 「お願い」 かなり険しい表情で睨むザギヴにケリュネイアは手をスリスリ、苦笑い。 結局、ケリュネイアに押し切られる形でザギヴも仕方なく了承した。 「お願いだから邪魔しないで。アミラルに着いたら他所で遊んで来て」 相当イライラしているザギヴの話なんてヴァンはおかまいナシ。 「じゃあ、お願いねザギヴ・・・・・ゴメンネ」 「あ、お土産お願いしますね。この身体になってからお魚が恋しくて」 「ほら、ブサイク猫さんもバイバイして!バイバイ!」 「あー、バイバイバイ!ったくうるっせえのが消えてちったあ楽になると思ったら!」 「別に帰ってこなくてよくってよ。特に宿屋の馬鹿息子~」 ────ブゥン。 四人の姿が光の彼方へ消えた後、ふとケリュネイアは呟いた。 「ねえ、父さん。今ふと思ったんだけど、転送機で闇の門の島って行けないの?」 「あー、行けるんじゃないんですか?でもやっぱり旅をするなら徒歩に限るじゃないですか」 アミラル──── チャカ的にはかなり思い入れの有る街。 ユーリスを助けるのに必要な3000ギアを払うため、突然姉から「お前、今から殴られ屋をやれ!」と指示され 海王の像の前で顔面が20倍くらいになるまで「お客様」にボコボコにされた、思い出の地。 宿屋の店主が、あの時ゃ大変だったなぁ!と笑う。 チェックインを済ますと、3人はまた作戦会議。他の部屋に泊まると聞かないザギヴを残して。 ヴァンの作戦として、サンポデモシマセンカ?→頃合を見計らって拝み倒す→アライケナイボウヤタチネ。 絶対に上手く行く訳の無い愚弄ファイターの都合の良い絵空事。 ナッジはヴァンに「ヤれる」「捨てる」と人指し指と中指の間に親指を入れるアレで説得され、渋々OKを出す。 夜になるのを待って、明らかに負け戦確定の作戦が決行された。 「あ・・・あ・・あ、ザ、ザギヴさん・・・・」 呼び出す役に廻ったのはナッジ。この作戦、成功すれば貴様が特隊だ!と焚き付けらての事。 「何?」 「その、あの・・・・・一緒に、散歩しませんか・・・・?」 「散歩?」 「あ・・・はい・・・あ、あのイヤなら別にいいです!ゴメンナサイ!!」 言葉少なく応えるザギヴに直感的にヤバいと感じたナッジはすぐさま逃げの準備に入る。 「・・・・いいわよ。夜風に当たりたいわ。」 「ス!スミマッ!えっ?」 思いの他、すんなりと承諾するザギヴに、最初の段階から失敗必至と踏んでいたナッジはたじろぐ。 「どうしたの、行かないの?」 「あっ!いっ行きます!お願いします!」 夜風が涼しい。石段を渡り付かず離れずの距離で歩く男女、月光を頼りに歩む。 「少し涼しいわね。」 「え、あっ・・・・はいっ。」 思いの他、ザギヴは優しい。一重にナッジに対する信頼の現れである。 長い階段を降りると、昔、ユーリスが破壊した宿屋の別館の方へと足を運ぶ。 「よっ」 突然ザギヴが階段の端の縁石に乗り、両手を水平に広げて、トットッとコミカルに歩き出す。 「あ、大丈夫ですか?危ないですよザギヴさん。」 「ふふっ。大丈夫よ。そんなに運動神経は悪く無いわよ」 以外な一面。こんな姿を見るのはナッジも初めて。 よっよっ、とバランスを取りながら進むザギヴを見て、何故だか鼓動が早くなるナッジ。 その瞬間、宿屋の別館の手前の茂みから何かが飛びだしてきた。何かと言うか、アレである。 ソレは土下座の状態でロングフィードしてくると、そのまま土下座の体制で着地。 「きゃっ」少し体制を崩すザギヴの肩を倒れないようにナッジが抑えた。 開口一番、目の前でロストール→ノーブル間の手紙配達よりも安い土下座をする馬鹿が叫んだ。 「姉さん!一生のお願いです!俺のアンギルダンで姉さんのロストールを攻略させて下さい!」 目をぱちくりとさせるザギヴと、少し抱き締める形で抑えてしまい、わわっ、と申し訳なく離れるナッジ。 「・・・・何を言ってるの?」 「あ、だから、その、俺のオチンロンを姉さんのオマンレンに出会・・・・」 一人土下座外交を行うソレが、即座にヴァンだと察したザギヴの目は冷たく輝く。 すると、ナッジも突然土下座。「ごっゴメンナサイザギヴさん、僕です!僕が全部悪いんです!」 「馬鹿!ナッジお前まで謝るな!」「だってだってだって!ホント謝らないと!」 スゥーと息を深く吸い込むザギヴ、そして深い溜め息をふはぁー、と吐く。 「あなたが一緒に来た理由はよくわかったわ。宿屋に帰りなさい。そして10日間私の前に現れないで。」 「ナッジ君も。彼に指示されたことだろうけど、私を失望させないで。自分をしっかり持ちなさい。」 と冷たく放ち踵を返し、もと来た路を帰ろうとした瞬間、ザギヴより少し背の高い少年の陰が立ちはだかる。 瞬間、少年はするりとザギヴの胸元のスカーフを抜き取ると、くるりと慣れた手付きでザギヴを後ろでに縛った。 「なっ!チャカ!?よしなさい!あなた何をしているのかわかっているの!!」 チャカは聞かない。まるでそれが当たり前の行為かのようにそのままザギヴを軽々、お姫様だっこ。 「チャカ!!」「うぉぉぉぉぉぉ!!すげえ、根性有るなお前!!」 チャカはニカッと笑うと「こういうのはさ、ちょっとの勇気と強引さが必要なんだよ。」 埃を被ったベットの上、崩れた天井から月の光が漏れる部屋。 少年3人が妙齢の美女に絡まる。一見すれば、少年をはべらかす妖女の姿。 しかし、その妖女であるべき人物が後手に縛られ、一番その状況に緊張しているのが少し不思議な画。 裸にされているワケでは無い。長いブーツだけを脱がされて、狭いベットの上で4人が抱き合っている。 チャカはザギヴの背もたれのように後ろから抱き締め、ヴァンは左の脇に顔を押し付けてお腹に手をあてて、 ナッジは裸足の足を身体で包みながら、膝小僧に鼻をつけて寝そべっている。 最初こそ、ザギヴは冷たい脅しの言葉で三人を恫喝し解放させようとしたが、3人とも突然襲うようなことはせず じっ、とこの状態を保ち続けている所を見ると、どうやら少しは安心してよさそうだ、と勘繰らせた。 3人とも嫌いでは無い。仲間としてはともかく人間としては、好き。 だから、光のほとんど届かない空間ならば、少しは冒険してみたいな。と女心を揺らしていた。 心配なのは、アキュリースからここに来るまでにお風呂に入っていない。足は体は匂ってないか、 そして、この子達にこのまま自分の知らない遠くの場所まで連れていかれるのではないかということ。 「あの・・・・もう辞めましょう。こんなこと・・・あなた達にも良くないことだから・・・・」 そう自戒のように呟く。が、虚空に声だけが掻き消されるのみ。 くくん。と髪の匂いを嗅ぐチャカ。そしてうなじを鎖骨を肩甲骨を、指でするりするりと撫で回す。 「辞めましょう・・・・今なら今日のことは全部忘れるわ・・・・・」 「どうして?」とチャカ。 「こんなことで・・・・貴方達のこと嫌いになりたく無いわ・・・・」 すすん。とビスチェのすそから脇の匂いを嗅ぐヴァン。お腹に置かれたヴァンの手が熱い。 「どうして?嫌いじゃないってことは俺達のこと、好きってことでしょ?ザギヴさん」 膝小僧にちゅっと口付けるナッジ。足がナッジの体温でじとっと温もる。 「あの・・・・私は・・・・男の人とソウイウカンケイになったこと無いの・・・・」 「・・・・い゛!今何と!??」 「あの・・・・だから、私、その、男の人とソウイウカンケイになったこと、無い。だから、怖い・・・・」 スライムのように、ズルリとヴァンは脇から崩れ落ち、ナッジはぴょいんと飛び上がりザギヴから離れた。 「あ、え、ゴメ、ゴメンナサイ!!」「てっ、撤収!撤収!姉さんマジゴメン!!」 すでに逃げる準備の二人、逆にそれが勇気の告白を行ったザギヴを傷つかせるとも知らないで。 「しようよ」 二人が離れたので、身体に触れる面積の増えたチャカは、ぎゅうっと強くザギヴを抱き締める。 「え・・・駄目。やだ。怖いわ。イヤ。イヤよ。出来ないわ。そんな。私なんて・・・・」 「最初はさ、誰でもそうだよ。怖いよね。俺もそうだったもん。 でもだからって怖い、自信が無いって逃げてたら一生出来ないよね。頑張ろうザギヴさん。」 優しく諭すチャカ。ザギヴの頬に口付ける。 「って、他人様を後手で縛るような奴の台詞じゃないけどさ。」 少しおどけると、ザギヴも深い深呼吸を行う。 「うぉっ!何だお前!何?今『俺もそうだった』とか言ったよな!お前俺等側の人間じゃないの?」 「え、誰!?誰!?僕知ってる?絶対絶対言わないから教えて??」 「あ、うん。カルラと、オイフェと、ユーリスと、エステルと、あと姉ちゃん。」 「・・・・チャカ。俺は親切な男だから、敢えて最後の言葉だけ聞かなかったことにしてやる。」 薄い月明かりの部屋で美女と少年達の甘い吐息が交差する。どちらもぎこちなく揺れて。 黒いビスチェを脱がすと、見た目からは想像も付かないほどの地味な白いブラジャーが覗く。 ヴァンとナッジはザギヴの背中をこねくりまわして、どうにかしてブラジャーを外そうと悪戦苦闘。 「わ、わかんない?」「め、めんどいから上にずらそうぜ?」 「あ、ソレ多分前ホックだよ」とチャカの声。近くで椅子に座りながら外を気にする。 そして、簡単にブラジャーの形式を見破られてしまったことが少しだけザギヴの心にちくりと刺さった。 月明かりで透けるような白さを讃える乳房、大きくて、そして甘い香りがする乳房。 せーの、でナッジとヴァンは左右の乳首をはぷっと口に含んで、舌で転がしたり、 きっと光の下で見たら凄く奇麗なおっぱいなんだろうなと想像しながら愛撫する。 目を瞑り、表情を変えず、ザギヴは微動だにせず黙りこくる。 「あのね、ザギヴさん。ウソでもいいからさ、少しだけ声出して『ハァ、ハァ』と呼吸してみてよ。 男はさ、特に始めての時って女性のリアクションが無いと上手く波に乗れないんだ」 チャカのアドバイスはザギヴの心をまたちくりと突き刺し、顔をこわばらせる。 一番チャカに傷つけられたのは、3人じゃ大変だろうから、と見張りを買って出てくれた彼の優しさ。 いや、今自分より全てに於いて上回るチャカの存在がザギヴの心をちくりちくりと刺激する。 「・・・・はぁ・・・・・あ・・・・はぁ。」 ちくりと傷つけられたと思う心が、いつのまにか身体の火照りの焚き付けに変えられたことにザギヴは気付く。 ああ、イヤな女。7つも年下の少年にアドバイスされて、勝手に傷ついて。でも、それすら火照りに変えるなんて。 ぷはっ。二人とも乳房を堪能すると、ザギヴの顔がこわばり紅潮しているのに気付き、 どうやら今までの行動に間違いは無いみたいと安心し、顔を見合わせ頷き、持ち場を変える。 ナッジはそのまま先ほどの足の部分に顔を移すと、内腿に唇を這わせる。 ヴァンは目を瞑るザギヴの耳をはむっと甘嚼みすると、「チューしていい?」と聞く。 ザギヴは答えない。ヴァンは最初イヤなのかな?と不安になるが、少しだけ唇を震わせるザギヴを見て 直ぐ真意を察知し、6つ年上の女性の柔らかな唇に自らの唇を重ねた。 下手なキスはお互いの前歯をカチリとぶつける。 唇を離して、ヴァンは先ほどの前歯のぶつかる感触が楽しかったのか、またカチリと歯をぶつけながら口付けた。 はむ、はむ、と内腿を少しずつザギヴの熱を持った部分へと、ナッジの口が進む。 スカートをたくしあげられ、色気の無いただ箇所を覆うだけの白い下着。 ショーツの中心にはぐっしょりと、ザギヴの描いた乙女の鏡が水面をたたえる。 母犬の乳房を探す子犬のように、ナッジは鼻をショーツの中心に擦り当て、熱い吐息を吹き掛ける。 ぴとっ、鼻を離すと、熱くねっとりと滲み出た愛液が鼻の頭で糸を引く。 そのまま、無造作に伸びる腕がショーツの端を掴み、優しく脱がそうとする。 が、脱がせれない。腰を落としてこわばらせるザギヴの身体がそれを阻止する。 「あ、ザギヴさん。腰をちょこっと浮かせてあげて。でないと上手く脱がせれないからさ」 ズキン!心臓を鷲掴みにされるようなチャカの一言。 阻止したわけでは無い。どうしていいか解らなかっただけなのに・・・・。 屈辱と恍惚と、情けなさと淫らが入り交じり、ザギヴはパニックになっている。 仕方なく、脱がすことを諦めて、ナッジはショーツの中心を横にずらした。 クロッチの部分に触れた瞬間に絡むように濡れるその部分。初めて目にする、女性の一番大事な部分。 シールミア貝の身に似てるって聞いてたけど、全然違うな。凄く、綺麗。 「あの・・・・・ザギヴさん。ザギヴさんのおま・・・・『ライラネート様』は、 す、凄く綺麗です。あと、凄くいい匂いがします。あの、甘い花の蜜みたいな・・・・」 ナッジなりにザギヴの緊張を解すための言葉だった。 本当は、ほんのり醗酵したチーズケーキと表現すべき香りだけど、これじゃ傷つくかも・・・・ と気にするが、初めて男性に視られ触れられた部分の匂いを形容されること自体、既に羞恥。 硬直したザギヴの手足の指が、埃まみれのシーツをぎゅううと掴む。 美の女神に形容したその部分を、ナッジはまた母犬の乳をねだる子犬のように、舌を鼻を這わせた。 くちょ、ぺちょ、ピリピリと光の波が脳と秘所を行き交うような快楽。次第に荒い吐息がザギヴから漏れ出る。 ヴァンは、過去に「ゼネのおっさん」と「レルラのおっさん」から聞いたテクニックをフル動員させていた。 首筋を舐め、背筋を指で愛撫し、そして乳首をくりくりと引っ張る。付け焼き刃のヘタクソな愛撫。 「ふぅ・・・・ふっ・・・・はぁ・・・・」吐息を漏らすザギヴを見て、勝利(=ヤれる)を確信した。 「やい、ザギヴ」 ・・・・呼び捨てにされた。 「俺の名前、呼んでみろよ。ザギヴ」 突然、手を止めて顔を真正面まで向けて呼び掛けるヴァン。 「ぁえ・・・・・・・・・・ヴァ・・・・ン?・・・・・」 初めて名前を読んだ。嫌いなわけではなく、人物的に「あなた」や「彼」と呼ぶ方がしっくり来るのに。 「駄目だ。聞こえない!ちゃんと呼べ!」 悪戯に微笑む少年の瞳。今、こんな淫らな行為を行っているのに、目の前に居るのはいつもの瞳の大きな少年。 「・・・・ヴァン」 「聞こえない!心もこもってない!もっかい!」 「・・・・ヴァ・・ン!ヴァンッ!」 ン、の部分で甲高く声を上げる。ナッジに愛撫される秘所からの快楽の伝達が、語尾を荒げさせる。 「よし。よくできました。」にこりと笑うと、ヴァンはザギヴの唇を荒々しく奪い舌を絡めた。 「あ、やばっ」 突然、ザギヴとヴァンを現実へと引き戻すチャカの声。 「もしかしたら、誰か来たっぽい・・・・。」 顔を見合わせ、お互い無言で目を皿にするザギヴとヴァン。ナッジには聞こえていない。 「俺ちょっとおっぱらってくるね。それまで、静かにしててね。」 チャカはその場を離れ、外で揺れるカンテラの灯の方へと走っていった。 黙って見送るザギヴとヴァン、そして、また顔を見合わせると、さっきよりも更に悪戯な瞳でヴァンは微笑む。 (声出したら、外に聞こえるぜ) 耳もとでぽしょぽしょと話すと、ザギヴの唇の前で人指し指を立てて「シィー」のポーズ。 その人指し指と中指をザギヴの唇から口腔へと滑り込ませた。 つるつるした歯を指の腹でなぞり、舌の上に溜まった唾液を丁寧にこそぎ取る。 今ナッジに奏でられている淫らな音と同じ音を口の中でも鳴らされている。 指をちゅぽん、と抜くと、てらてらと指が濡れほぞり、その指が地虫のようにそのままシーツと背中の間を進む。 「!!!!!!?」 濡れる指が汗ばむ尻の谷間を経て、ナッジの顔から約10cm下ほど、もう一人の『ライラネート様』で止まる。 くりくりと弄ばれると、元々汗で湿る部分に指に絡んだ唾液が潤滑油となって、中指が第ニ関節の先まで侵食する。 「!!!ぁヤぁっ!!!」 叫ぶザギヴに驚き、ヴァンはとっさに乳首を責めていた左手で口を包む。 (バカザギヴ!声出したら外の人にバレるだろ!) その間も中指は止まらない。上下上下と指を運動させ、ナッジの愛撫とは違う退廃的な快楽がザギヴを襲う。 身をよじり、何とかその特異な愛撫から逃れようとするが、腰を浮かすとナッジの角がお腹に刺さる。 逃げられない。この愛撫から。「他の事には使わない」ような所を「こんな事」に使われてしまうなんて・・・・。 目をヴァンの方へと泳がせ、ザギヴは潤む瞳で懇願する。 (やめてほしいの?) 止めて欲しい。こんな快楽を覚えてしまったら、もうきっと帰ってこれない。こくりと首を縦に振る。 (何でもする?なら、やめていいよ) こくり、こくり、と二回ザギヴは頭を縦に振った。言葉の真意を読む気は廻らない。 (いいよ。約束だからな) ぬぽん、中指が抜かれた。安堵感と空虚な感覚が同時にザギヴを襲う。 しかし、さらにヴァンの意地悪がザギヴを襲う。 抜いた指を、口元まで持って行く、そして信じられないような言葉をヴァンは吐く。 (何でもするんだろ?じゃあ、指がよごれたから綺麗にしろよ!) びくんっ!体全体がまるで死後硬直のように固まり、大腿が愛撫するナッジの顔をぎゅっと押さえ付ける。 (やだ、なに、こんな、汚い。信じられない。無理よ。何?え?何?) 調子づくヴァン。しかしザギヴの意志を尊重するように、唇の手前で指を止めている。 やだ、やだ、やだ、と心の中で呟きながら。 ゆっくりと、ザギヴは舌を伸ばし、指を口に含んだ。 そして、脳内で言い訳を吐く自分の意志とは関係なく、ちゅっ、ちゅっ、と音を鳴らして、指を吸った。 (やだ、私、何・・・・してるの?信じられない。気持ち悪い。浅ましい。下品。いやらしい・・・・) 脳の裏側で言い訳を吐けば吐くほど、快楽があらぬ方向へとうねり、心と身体が分離したような気分になる。 ヴァンは、赤子のように指を吸うザギヴの口から指を抜くと「汚くないよ」と、また唇を奪い舌を絡めた。 いつも、言い訳ばかりをしていた。 恋愛の経験が無いのは、人並みの人生を送れないのは、身体に巣食う魔人の「せい」だ、と。 誰からも疎まれる存在、誰からも遠ざけられる存在なのは、ゾフォルの予言の「せい」だ、と。 そして、全てに打ち勝ち、言い訳の拠り所が無くなった時、 己自身、ザギヴ・ディンガルを一人の女性として心の底で認知するようになった。 だが、認知すればするほど、更なる言い訳で塗り固めて逃げようとする自分が居た。 私は違う。私は浅ましくは無い。カルラや、オイフェや、双子の妹のような奔放な女とは違う、と。 しかし、奔放な女というカテゴリーが有るとするなら、そこにエステルやユーリスや、あの子ですら入ってしまう。 結局の所、自分の作った、「男性経験の有る」奔放な女というカテゴライズで、自縄自縛に陥っていた。 いつも、女性陣がケセラセラと性の話題を語る中、全く同じ理由でザギヴとフェティだけが蚊屋の外に居て、 同じように「下らないわ」という言い訳で自己弁護し逃げていた。そんな自分が大嫌いだった。 が、更に自己嫌悪に陥るのは、遠くで聞き耳を立てる「浅ましい」自分の姿だった。 また、記憶をぐるりと1回転させる。 あの子が、「ザギヴを一人にするのは心配だから!」と猫屋敷から冒険に連れて行ってくれた時。 宿屋で夜中に、エステルとユーリスとあの子が、今まで出会った男性の話で盛り上がっていた。 この人とならエッチしたいよね!という話題。 寝たふりをしながら、またしても聞き耳を立てていた。 浅ましい。恥を知りなさい。そんな目で男性を見ているなんて信じられない。と言い訳をしながら。 ・・・・言い訳をしながら、声を出さずに一人、参加していた。 (あんな、誰でも女性と観たら口説くような男の何処がいいのよ!ふしだらに胸を開けさせて!) (確かに・・・・カッコイイけど。姉離れの出来ない男なんてイヤよ!それに、何よ、あのお腹丸出し!) (ベルゼーヴァ様・・・・・・・・・・・・・・・・・・) 沢山の言い訳を重ね、お眼鏡に叶ったのは、尊敬するネメアとベルゼーヴァと、温和で誠実なロイの3人だった。 本当は、いつも意識していた。 ふしだらな男のさり気ない優しさや開けた厚い胸板を、姉離れの出来ない男の美しい顔や割れた腹筋を、 少年達の甘酸っぱい汗の香りや真っ直ぐな瞳を、男性という存在を、いつか受け入れたいと。 本当は、いつも期待していた。 ヴァンが一緒にアミラルに行こうと言ってくれた時、ナッジが一緒に散歩をしようと誘ってくれた時、 チャカにどこかのお姫さまのように抱きかかえられ、優しくベットに寝かし付けられた時、 期待で高まった胸を言い訳の外壁で覆い、イヤな女を演じ、逃げて逃げて、孤独を求めていた。 幸福の熱で覆われたら、自分のような存在は溶けて無くなってしまうのではないかと怯え。 ねっとりと絡まる舌をやさしく離す。何度も口付ける内にヴァンは上手にキスが出来るようになっていた。 (・・・・意地悪してごめん。) 流石に調子に乗った、とバツが悪そなヴァン。そんなヴァンの姿ではっと追憶から現実に戻された。 ザギヴは、少し戸惑った表情で眉をひそめ、そして普段は見せないような柔和な笑顔でまた唇を求めた。 (・・・・・なんだか、もうどうにでもなっていい気分・・・・・) 「いやー、びっくりした!宿屋のおっさん!よくココがアミラルの若者の溜まり場になってるからって 見回りしてるんだって!てゆうか、ザギヴさん!声!びっくりした!猫じゃないですか~って誤摩化したよ!」 戻って来たチャカの声で二人はびくりと震え、身体を離した。勿論ナッジは気付いていない。 「あ・・・・ゴメン。いいよ。続けて続けて。」 「・・・・・ぁはぁ・・・・・あの・・・・・ふぁ・・・・・したい。」 悦楽の吐息に混じり、ザギヴは心に溜まっていたどす黒いものを吐くように、心情を吐露した。 流石にこれはナッジにも聞こえた。ポジション的に先発隊確定のナッジはびっしょりと濡れた顔を上げて、刮目。 「じゃ、ヴァン、そろそろさ、ザギヴさんの手を外してあげてよ。大変そうだから」 全裸の美女が月灯に照らされ、柔らかな隆起を晒し、八の字に太腿を開き寝そべる。 そして、ズボンを脱ぎ、下半身を露出させる少年。ブルブルと震え、額の先端の角が振動する。 「あ・・・・駄目だよ・・・・どうしてだろう。さっきまでガチガチだった僕の・・・・勃たない。」 「ナッジ!頑張れ気合いだ!エロいこと考えろ!アレ、カルラのケツとか、あと、アーギラシャリア?とか!」 見知る女の名前を上げられ、ザギヴは少しだけ寂しそうな顔をして、太腿を閉じる。 「ナッジ。リラックスリラックス。ザギヴさんもね。リラックス」 「あ、うん。リラックス。あとエロいこと・・・・・」 カルラのお尻、ああ、ちっちゃくて張りがあって、いいなぁ。。。。 アーギラシャリア?って、確かセラのお姉さん?美人だよね。スタイルいいし。実はおっとりした人だったし。 アレ?アーギルシャンマ?だっけ、アーギルダリアン?だっけ、アレ?それともアンギルダリアン?だっけ? (アンギルダン?) 「うっ!!!!!わぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」 「どっどどど、どーしたナッジ!」 「ゴメンナサイゴメンナサイ!!僕は駄目なコーンスです!!全然勃たないし変な妄想しました!!」 「馬鹿っ!こんなとこでコシんな!一世一代のチャンスだぞ!ゴウに入ればゴーティダイモン!」 いつも通りの少年達の即席寸劇に、ふと、今自分は何をしているんだろう?とはにかむザギヴ。 そして、白く長い指先を慌てるナッジの顔まで伸ばし、「抱き締めて」と哀願するように両手を掲げた。 ナッジは、伸ばされた手の先に自らの手をかいくぐらせ、優しく互いに抱き締めあう。 ザギヴの豊かな胸に顔を埋めるナッジ。乳房の奧から、ドクンッドクンッと早い鼓動を感じる。 僕と、同じだ。ザギヴさんも緊張してる。・・・・どうでもいいけど、おっぱい温かいな・・・・。 顔を見遣ると、慈母のような恋人のような、優し気で淫らな表情で谷間に潜むナッジの顔を見つめている。 ドクン。また海綿体をつたい、憤るような快楽がナッジの股間に集中する。 そして、恐る恐る、腰を落し、先端をザギヴの秘所に押し当てる。熱くて柔らかい。 「しっ!失礼します!」 素っ頓狂なナッジの台詞に、ザギヴはクスリと笑うと、静かに「・・・・どうぞ。」と答えた。 そうして、嘘つきで意地っ張りで寂しがり屋のライラネートは、男神を館へと迎え入れた。 「!!ぃっだぁっ!!!」 ザギヴの叫喚。先程までの甘い吐息とは真逆の耳を劈く悲鳴。 じわりじわりと、敷かれたシーツが赤く染まる。 「ああああっ!スミマセン!だっ大丈夫ですか!!」 「・・・・っ・・・・だ、大丈夫・・・・いいの・・・・続けてっ・・・・・」 ズリッ、ズリッ、愛撫される快楽とは違う、内臓を抉られるような苦痛。 どこかに傷を癒す快楽を探そうと、ザギヴは痛みだらけの空間から逃げるようにナッジの唇に縋る。 くっつけ離し、くっつけ離し、今痛みを産む空間と同じような動きで、唇を鼻を舌で舐る。 「ね、ね、ザギヴ・・・・姉さん?」 ナッジに独り占めされる形となったヴァンは、寂しそうにもじもじと呼び掛ける。 「あのさ、折角だから俺の、口でしてよ・・・・。我慢できない」 顎先に押し当てられるヴァンの生殖器。初めて見る。想像しているよりも、大きい・・・・・。 今、私の中で暴れるモノ、こんなモノが入ってるの?? 心で冷静な台詞を吐きつつも、痛みを堪えるために快楽を探す唇はヴァンを拒まない。 あくん、口を大きく開け、舌をチロチロと動かしながら含む。もう恥も外聞も無い。今有る痛みが全て。 涎が溢れ、くんくんと鼻を鳴らし呼吸しながら、喉元に蓋をするようにヴァンの生殖器を飲み込む。 初めての行為、上手に出来るわけも無く。上下の歯の突起がちくんちくんとヴァンを痛めつける。 「・・・・・っつ・・・・」 (姉さんだってナッジの我慢してんだ。俺も痛いとか歯とか言わない!我慢!) ちゅぽ、ちゅぱ、口の端から溢れた唾液が滴る。 やがて擦れる歯の刺激も快楽の糧となり、ヴァンは1分と持たず、達する。 「あっ・・・・ゴメッ、出る。出しちゃうねっ!」 ビクンとヴァンが震えて、口の中広がる苦味走るゼリーのような感覚。 と、同時に、自己の快楽まかせに腰を振るナッジも絶頂に達した。 「アアッ!!」少女のように高い声を上げ、引き抜き、力無くザギヴの腹部に射精した。 どろり、と粘膜を張る白濁の愛の欠片。お腹の上で熱く迸ると、体温を奪うように冷めていく。 呆気無かった。 もっと。濃厚で退廃的で、粘っこくて心と身体が乖離するような快楽に襲われるのかと思っていたが、 愛撫されていた時の方が、よっぽど想像のモノに近い、何とも味気の無い行為だった。 よく、カルラ達が言う、「向こうに行く」「ドロッと出る」「頭がパーになっちゃうような」 そういったモノとは懸け離れた、まるで儀式のような行為。 ただ、内臓を抉られたような痛みと、口の中を覆う苦みと荒い呼吸が、今までの全てが真実だと訴えかける。 なんだ・・・・こんなものなの?それとも、私はまだ本当の愛の営みを知らないだけ、なのかな? ごくん、とそれを飲み込むと、心の中に開いた風穴を埋めるように、一つの思考が定まった。 ────まだ、足りないな。まだ、したいな。もっと愛して、愛されたいな。 「ザギヴさん、お疲れ様。」 一部始終を観ていたチャカが、ザギヴの額にやさしく手を当て、ベッドの横に腰掛けた。 優しく微笑む少年の顔。額に置かれた手が汗を拭い、長い髪をそっと撫でる。 「わっ!!」 不意を突くようにザギヴの手が、チャカの股間へと伸びていた。其所は、熱く硬く勃起している。 「・・・・ごめんなさい。こんなになるまで我慢させて。」 「あ、いや、いいんだよ。大丈夫。」 「もう少し・・・・・身体を休ませたら、大丈夫だと思うから・・・・・その時は、チャカも一緒に、ね。」 普段の低く響くような声色とは違う、甘えるような艶やかな口調のザギヴ。 ニコリとチャカは笑うも、これは、大変なことを教えてしまったのかなぁ・・・・と少し心配の情を湧かせる。 さわさわと服の上からチャカの性器を摩るザギヴの手、チャカはその手を掬い上げて、優しく繋いだ。 「うん。じゃあ。体力が回復するまでゆっくり休も。今度は俺も仲間に入れてもらうよ。」 ザギヴは繋いだ手をさらに指1本1本互いに絡ませる形で繋ぎ直し、ぎゅっと握り返し、ナッジとヴァンに目を配る。 息を切らすナッジ。先ほどと同じような体制で、太腿を枕にして休んでいる。 ヴァンもまた先ほどと同じように、左脇に顔をつけ、二の腕を枕にして惚けている。 3人の体温がザギヴの身体と心を温めて、少しだけ下腹部の痛みを和らげて行く。 そうして、惚けるヴァンの唇にザギヴは唇を重ねると舌を滑り込ませ、口に残る苦いものをヴァンに返した。 「!!わっ!!!!きったねっ!!何すんのさっ!」 「・・・・さっきの仕返し。」 クスクスと笑うザギヴ。ヴァンは嫌そうに口を拭うと、耳もと囁くように語りかけた。 「ねぇ、ザギヴ姉さん?」 「ん?」 「あのさ、俺、結局チンコを入れて無いワケだからさ、俺だけまだカテゴリー的に童貞じゃん。 なんか、そんなズルいよな。2回戦の時は俺が入れる番で、いいよね?」 「ちょっと・・・・正直まだ痛いからそういうのは無しで・・・・。他ならどうにかするわ。」 少し寂し気な顔をするヴァン。だがすぐににんまりと邪な笑顔を浮かべる。 「他なら?」 「うん。なんとか。」 「じゃさ!じゃさ!俺コッチでエッチしたい!」 懲りないヴァンは、また先ほどと同じように、お尻の谷間に指を滑りこませると、トントンッとソコを刺激した。 ────バシッ! スナップの効いたザギヴの平手が、ヴァンの頬に放たれて乾いた音を発する。 そしてまたクスクス笑うと、翻した掌をそのままヴァンの頬に当て撫でると、呟いた。 「調子に乗らないっ。」
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N1/W32-119 カード名:定めの魔法少女 フェイト カテゴリ:キャラクター 色:黄 レベル:2 コスト:1 トリガー:1 パワー:7500 ソウル:1 特徴:《魔法》?・《クローン》? 【永】 あなたの手札が5枚以下なら、このカードのパワーを+1500。 母さんの願いを、かなえてあげたいの レアリティ:PR ブースターパック 「魔法少女リリカルなのは The MOVIE 1st 2nd A s」 BOX封入特典
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銃の形をした召喚器。それはトリガーに過ぎない。 本来ならば、その身体を銃身とし、精神を火薬とする。 ならばその撃鉄は、この言葉であろう。 ――ペルソナ。 03 Burn My Dread 藤堂綾也は星が好きだ。月が好きだ。それらを抱く夜空が好きだ。 何故、と聞かれると返答に窮する。ただなんとなく、ぼんやりと好きと感じるだけだからだ。 幼少の頃、引き取ってくれていた義父とともに夜空を見上げることが多かった。もしかするとそのせいかもしれない。 十年前……両親を亡くし、綾也自身にも重大な惨禍をもたらしたあの事故の後。 ただでさえ親戚が少なく、なかなか引き取り手が現れなかった綾也の前に現れた人物。 それが彼の義父となる男、藤堂 尚也だった。 義父は不思議な人だった。子供心に、何かを感じ取った覚えがある。 その何かは綾也を惹きつけてやまなかった。 綾也が中学生になった時、同時に正式な養子となって性を貰った。 妙に嬉しく感じたのを、覚えている。 ミッドチルダの夜。綾也はあの頃と変わらないように見える月を見上げ、そして腕時計に視線を落とした。 あと数分で、影時間が訪れる。感慨に浸る時間もそろそろ終わりだ。 これからの事に、視線を向けるべきだろう。 目下の所、問題はシャドウの出所だ。自分の知る限りでは、あのように市街地に出現するのは少数のイレギュラー。 大半のシャドウは、「巣窟」のような場所にいる。と思われる。 それが以前のように巨大な塔だったら分かりやすいんだけど、と内心独りごちた。 「タルタロス」。ギリシア神話の冥界の最奥地、「奈落」の名を持つそれは、神話とは逆に天へと昇る広大な塔の形をしていた。 その正体は、以前の世界での有数の複合企業、桐条グループが起こした“実験事故”の影響で、影時間にだけ姿を現す迷宮だ。 桐条グループは、いや正確には、桐条鴻悦……つまり当時の桐条グループの総帥は、「時を操る神器」を作ろうとしていたらしい。 そのため、鴻悦はシャドウを研究し、その特性を調べていたそうだ。 しかしシャドウを調べるうち、鴻悦は次第に虚無感に苛まれ、世界の滅びを願うようになったという。丁度その頃から、鴻悦の研究は当初の目的とずれていった。 破滅願望をもった鴻悦は、世界を滅ぼす研究へと身を投じたのだ。晩年の鴻悦の狂気を、その孫娘はこう語る。 「祖父は、何かに取り憑かれているようだった」……と。 鴻悦の研究は進み、もう少しで実験が完成する、最終段階まで来ていた。最後の実験……その最中、一人の研究者による実験の強制中断によって、その研究は「実験事故」という形をもって終結した。 実験事故は同時に、大惨事を引き起こした。周辺一帯を吹き飛ばす程の大爆発、住民の被害も甚大。 この時、綾也は両親を亡くしていた。 そしてその実験事故の禍根はそれだけに留まらない。後腐れ、副産物とも言うべきものが発生していた。それが、影時間とタルタロスだ。 これは後に知った事なのだが、実際には、影時間の発生は大量のシャドウを集めたことにより、起こるべくして起きたことだという。 シャドウには微力ながら、時空間に干渉する力があると考えられている。そしてシャドウが寄り集まり、時空間に干渉する力が集積した結果、影時間が発生する。 シャドウを大量に集めた結果。時空間に干渉する力の集大成。それが影時間というのは、ごく自然に思われる。 つまり、影時間とは「シャドウの力の正しい表れ」なのだ。 そうなれば、この世界でもシャドウの力を集積、増幅させた何らかの要因、そしてその原因があるはずである。 シャドウの力を増幅させた何か、それがそのまま巣窟である可能性もある。が、それは考えにくい。 何故ならそんなことができるのは、シャドウの事をよく知る「人間」である可能性が高いからだ。 どちらにせよ、敵の居場所が分からない以上こちらからのシャドウへのアタックは不可能なのが現状。 とはいえ、今のところ戦力は綾也ただ一人。いくら綾也が強いといっても、一人で敵地に乗り込むのも危険過ぎるために、身動きが取れない。シャドウの巣窟を見つけたとしても、結局は動けないのだ。 何か、嫌な感じがする。 シャドウがこの世界に蔓延っているのは事実なのに、こんな膠着状態のままで落ち着いていていいのだろうか? 現状に対する不安や焦りが、綾也の心中にあった。 しかしひとまず綾也はそれを打ち消し、今できることに集中することにした。すなわち、六課の周辺にシャドウが現れた場合の掃討である。 攻めることはできなくても、守ることはできる。守ることしかできない、とネガティヴに考えることもない。 守ることができるというのは、それだけでも重要なことだからだ。 イレギュラーが発生した場合、機動六課の周辺だけならば、綾也一人でもカバーできるはず。 しかし……と、どうしても考えてしまうことがある。 (僕が、探査型のペルソナを持ってさえいれば……) ペルソナには、戦闘に向かない「探査能力」に特化したものがある。「生体エネルギー」のようなものを敏感に感じ取り、それを解析できる能力。 広域をサーチすることにも長けたこの能力は、今の綾也にとって必要不可欠なものだ。この能力さえあれば、シャドウの居場所や出所も突き止められるはずである。 しかし生憎、綾也は補助能力に特化したペルソナを持ちこそすれ、それはカテゴライズするなら「戦闘用」にすぎない。 数多のペルソナを使いこなし、どんな敵とでも戦ってきた綾也に欠けている能力。それは「戦わない」力。 探査能力のスキルや素質を、綾也は欠片も持ち合わせていなかった。 いわゆる、適材適所。ペルソナにもそれがあるということだ。綾也は今まで常に先頭に立ってシャドウを倒してきた。 リーダーという役割があったからだ。 その裏で、バックアップの役はいつでも存在していた。その大切さが、今になって身に染みる。これでも十分、その重要性は理解していた筈だったのだが。 溜息をつきたくなった。確かにイゴールの言うとおり、前途多難だ。 直後、体が異様な感覚を受けた。時間と時間の境界に足を踏み込む時の、あの一瞬の感覚。 深い暗闇に身を置いた時のように、胸の奥がざわざわとして、胃が空くような感触を受ける。 闇が頭上に迫り、覆い包まんと被さってくる。そして、月が不気味に光り輝く。 影時間の訪れだった。 綾也は素早く辺りを見回す。 この瞬間だ。シャドウの住処が影時間にだけ現れるのなら、影時間に入った瞬間、何処かになんらかの動きがあるはずだった。 少なくとも、シャドウの住処になるような巨大な場所が出現するのならの話だが。 しかし、そのような動きは見られなかった。つまり、シャドウの住処は堂々とそびえ立つような建造物ではない、ということになる。 もともとこれでシャドウの住処が見つかるとは思ってなかったし、「見つかればいい」程度に考えていたので、そこまでショックなことでもないのだが。 そして、本題はここからだ。イレギュラーによる被害を減らすための、パトロール。 古典的だが、先人の知恵は借りるもの。タルタロスや影時間を消そうとしていた先輩たちも、戦力が増えるまではこのようにゲリラのような活動をしていたと聞く。 召喚器を腰に、綾也は市街地へと繰り出した。 月明かりだけを光源に、とは言っても十分に明るいのだが、不気味に静まり返った市街地はさながらスプラッター映画の舞台のようでもある。しかし飛び出してくるのは殺人鬼ではなくシャドウだ。人を襲うという点で、似たようなものだが。 血溜まりのように足元に広がる赤い染みや、異様に明るい月に青緑に染まる空と地面。 所々に西洋風の棺が樹立している。適正無き人間の、象徴化した姿だ。 シャドウと影時間の影響を遮断する作用が、影時間の中において視覚化されたものである。 象徴化している人間はそもそも影時間に立ち入ってはおらず、適性のある人間からすれば、象徴化している人間は相対的に言えば「止まって」いる。 故に象徴化している間の人間は、影時間に起こるさまざまな事象に影響を受けない。しかしシャドウによって影時間に引きずり込まれた者は、シャドウの格好の餌食となるのだ。 餌食。自分で考えていて胸が悪くなる。見慣れた影時間の風景が、今は少し不快だ。やっとの思いで消した影時間が、この世界でも。 ぐちゅり、と背後で奇妙な音がした。 綾也は振り向き、道路に蠢く黒いわだかまりを認めた。青白い仮面が、同じく綾也を捉えている。 ホルスターから召喚器を引き抜いた。そのまま流れるような動作で銃を回転させ、その銃口をこめかみに向ける。 躊躇なく引き金を引きながら。 「タナトス!」 そして、死を司るその名を叫ぶ。と同時に現れる棺を纏う黒衣の死神。タナトスが、跳躍したその勢いのまま、その腰に佩かれている剣を引き抜くと、その身体を真っ二つにすべくシャドウに切り掛かる。 シャドウがその兜割りのような上空からの強烈な一撃を受けきれるはずもなく、敢え無く一刀のもとに両断された。 両断され、二つに分裂したシャドウはすぐに原形を失い、霧消した。役目を終えたタナトスはかすかに揺らぎ、消えていく。 綾也は召喚器をホルスターに戻す。 内心、拍子抜けしていた。手ごたえがまるでない。これまで幾度となく強敵を相手に戦ってきた綾也には、雑魚同然だった。 しかし、と気を引き締める。そんな雑魚でも、野放しにはしておけない。無力な一般人は、いかに惰弱なシャドウであろうとも、それから逃れることはできないのだ。綾也は散策を再開した。 シャドウは、人間の精神のエネルギーを餌として食らう。餌食となり、精神を食われた人間は心神を喪失し、完全な無気力状態に陥る。 こうなった人間は「影人間」と呼ばれ、誰かの保護なくしては生きてゆくことさえできないような状態に追い込まれるのだ。 つまりそれは、緩やかな殺害に他ならない。 ミッドチルダ……この大都市だ、イレギュラーの数も少なくないはず。 綾也一人ではどうしたってカバー出来ないところもある。多少の被害は、諦めるしかない。 しかし、影人間となった人を見殺しにすることもできない。 影人間を元に戻す方法が、ひとつだけある。大型の、他とは一線を画す強力なシャドウを倒すことだ。 これは強い力を持った、いわばリーダーを失ったシャドウの勢力の低下が原因と思われる。 しかしそれも一時的なものだ。いずれまた大型のシャドウが現れ、影人間が増殖する。 イタチごっこのようだが、それを続けなければいずれは全ての人たちが影人間と化してしまう。 それを防ぐためにも、不毛に思える戦いを続けなければならないのだ。 しかし無限に思われるそのサイクルに、どうすれば終止符を打つことができるのか。その方法は、おそらくこの世界の影時間を消す方法と同じはずだ。 シャドウの存在は、影時間と直接の関係はない。 しかしシャドウがその姿を現し、人を襲うことができるのは影時間の中でだけだ。 影時間を消せば、シャドウがこの世界に直接関与することはできなくなる。 シャドウの存在そのものを完全に消し去ることはできないが、シャドウがこちらに干渉してこれる時間を消すことで、シャドウによる被害は無くすことができるのだ。 そのためには、影時間を消す手がかりと、影時間ができた原因を突き止める必要が……。 結局、思考は堂々巡りだ。今は考えても無駄なこと。綾也は考えるのをやめた。とりあえず今は、この時間の中、出てくるシャドウを消していくだけだ。 そうすれば、少なくともこの周辺での被害は減るはず。 その綾也の考えは間違ってはいない。しかし、同時に一つ簡単な、それでいて重大な見落としをしていた。 シャドウが出現するのは、なにも屋外だけとは限らないのだということを。 機動六課、局内。 灯りは全て落ち、窓から差し込む月明かりだけが廊下を照らしだしている。 時の刻みが停止し、静寂に包まれた暗闇で、なのははひたすら走っていた。 背後に迫る気配。振り返らずともその姿はなのはの目に焼き付いている。影のように黒い体に、のっぺりと青ざめた仮面を張り付けたような異形。なのはは知る由もないが、「マーヤ」と呼ばれるタイプのシャドウだった。 最もポピュラーで、戦力もさほど高くない小型のシャドウ。マーヤは、仮面ごとに1~12までのタロットのアルカナになぞらえて分類される。 このマーヤのアルカナは、魔術師。逆位置の啓示を名に持つ、「臆病」のマーヤだ。 数あるマーヤの種類の中でも最弱の「臆病のマーヤ」だが、今のなのはにとっては十分な脅威となりうる。 マーヤは真っ直ぐに、獲物であるなのはを追っていた。 どうする?どうすれば。頼みの綱の綾也は、周辺のイレギュラー掃討に向かっている。 影時間が明けるまで帰ってこないだろう。救援は望めない。 この時間内、なのはは、それどころか六課全体は完全に無防備になる。魔術師の要のデバイスが使えず、機械も使えない。 こんな悪夢のような状況でできることと言えば、あのシャドウから逃げ続けることくらいだった。 しかしそれもいつまで持つか。戦闘時の機動を飛行魔法に頼っているなのはは、普段は極度の運動音痴。 持久力だって高くない。走り続けることもできなくなったら、待つのは死。それだけだ。 (そんな……っ) いくらなんでも、あんまりではないか。局内は安全だと思い込んだが故の危機。しかしその判断ミスを誰が責められよう。 シャドウは外からやってくるものだという認識が、四人の内に共通していた。 ほんの数分前、影時間が訪れてすぐのこと。なのはは六課の局内を捜索していた。 影時間の事を、局員にどう伝えるべきか。日中は、綾也が六課に入隊することを決めた後、なのはも含めた四人で、対策を話し合った。 結果、影時間に適応していない者にはそれを伝えず、適応者のみに影時間を打ち明けることになった。 適応していない、その事実をしらない者たちに真実を話したところで何ができるわけでもなく、いたずらに混乱させるだけだと考えてのこと。 不安を煽るメリットは、皆無だ。下手をすればこちらの正気を疑われかねない内容なのだから、尚更である。 よって、影時間に入ってから適応者を捜索するという手順に至り、影時間内での行動も、ここで決められた。 綾也は周辺のパトロール、残った三人は六課内部で適応者の捜索。 三人で手分けして、象徴化していない適応者を探す事になっていた。 しかし、まさかこんな事になるなんて。 とりあえず行くあてもなく、なのはが廊下を歩いていた時、不気味な音と共にそれは訪れた。 聞き覚えのある、気味の悪い音。なにかが潰れたような、得体の知れない奇妙な音。 恐る恐る振り向けば、そこにあったのは小さな黒い塊だった。丁度月の光が届かない、影になっている部分に生じている「何か」。 いや、正体は分かっている。この闇の中、生じる影よりもなお黒く昏いその異物。 塊は徐々に大きさを増し、奇妙な箇所から腕を二本生やすと、なのはの方を振り向いた。 大きさ、高さはせいぜいなのはの膝程度。昨夜のシャドウと同じように、光を全く映さないゴムのような表面。 仄かに発光している、青白くどこか物悲しげな表情をした仮面。その仮面が、なのはの姿を「見た」。 瞬間、なのはの背筋に氷柱が通ったがごとく全身が強張る。 マーヤがなのはの方へ滑るように向いだしたのと、なのはが逆方向へ逃げ出したのはほぼ同時だった。 一度覚えた恐怖は、そう簡単に拭い去れるものではない。この異形の正体を知っていても、それを前にして立ち向かうことなどできない。 昨夜出くわしたあの大型のシャドウとは違って体も小さく、腕だって二本きり。 その手に刃が握られているわけでもない。 少なくとも、あれよりは遥か格下の存在だということは分かった。 しかし風貌的に昨夜のシャドウを思わせるマーヤは、なのはの心の根元的な部分にある恐怖を呼び起こす。 この先一度でも立ち止まったら、きっとその場で動けなくなる。なのはは直感的にそう感じていた。 シャドウの動きは、ともすれば子供の駆け足並みに緩慢だった。しかし、それでいてなぜか振り切れないスピードでなのはを追ってくる。 足を必死に動かし続ける限りは、捕まることはない。しかし、影時間が明けるまで走り続けることができるのか。 綾也によれば、影時間はおよそ一時間。 (できっこない……!) だからと言って、諦めるのか。ここで己の生が終わる事を、よしとしていいのか。 目を、逸らしてはなりません…… 「!?」 心の奥底で、自分のものではない声がした。いや、本当に声だったのだろうか? なのはは呆然と立ち止った。漠然と心の中に溢れる、この不思議な感覚。心臓が、早鐘を打っている。 人が誰しも心に抱える恐れや怖さというものは、自分にとって何が危険なのかを教えてくれる重要なもの。 そして逆に言えば、何も恐ろしいと思わなくなったとき、人は立ち止まらなくなる。 自らの行いを、そしてその行動の結果を、恐れなくなるからだ。 人は、恐れに縛られれば、何もできなくなる。 かといって、恐れを全く抱かなければ、行動に犠牲を出す事すらを厭わなくなる。 真の恐怖を覚えた時、何が人を支えるのか。それは自分を信じる心。そして、自分の信じる何かへの信頼。それだけだ。 自分から眼を逸らさず、向き合ってこそ、恐怖へ立ち向かうことができるのだ。 背後のシャドウを振り返り、緩慢な動作で迫るそれを見据える。 なのははシャドウを通して、見詰めていた。真の恐怖の、その先にあるもの。 そして信じた。自分の力を。自分の中に眠る、可能性を。 (綾也君……) 心の中で彼の姿を思い描く。その後ろ姿が、拳銃を自らの頭に突き付ける。 なのはは、自分の手を銃を持つ形にしてこめかみに宛がった。 仮想のトリガーを握る指の動きが、彼の動きとリンクする。 今、この行為の意味が理解できた。必要なのは、勇気と覚悟。そして……この、言霊。 震える吐息を吐きだして、深呼吸を一つ。気持ちを落ち着かせて、一音ずつ、呟くように。 恐怖を燃やせ。 ……トリガーを、引いて。 「ペ・ル・ソ・ナ」 そして。 弾丸が放たれた。 なにかが弾けるような音とともに、なのはから精神の欠片である青白い結晶のような板が散乱し、そしてそれは徐々に人の姿を象って行った。 なのはを立ち止らせたその 声なき声 が、なのはの脳裏に囁きかける。 我は汝……汝は我……。 我が名は内なる仮面。 汝の心理に宿りし魂が刃。 我は汝の心の海より出でしもの。 白銀の車輪、アリアンフロッド。 極彩の虹もちて、あらゆる悪を調伏せしもの。 我、汝の運命の刻みと共にあらん……! 現れたのは、後光が差しこむように感じる光の女神、アリアンフロッド。 後光のように見えていたのは、一定の速度を保ちながら絶えず回転している、巨大な白銀の煌めく車輪だった。 その車輪はそれ自体が光を放っており、赤から紫へと七色のグラデーションを燈しながら周囲を染めている。 その光を受け、流麗に流れる絹糸のような頭髪。まさに虹のように光り輝き、その軌跡に淡い燐光すらを残してゆく。 その身にはゆったりとしたローブのようなものを羽織っており、額にはティアラを頂いている。 頭上には、天使の輪の如くに虹が浮かんでいた。 ゆっくり、誘うようにアリアンフロッドがその手を差しのべた。 するとその手は聖なる光を発し、虹のような七色のスペクトラムの流れがシャドウを射抜く。 たちまち蒸発を始め、もとから存在しなかったかのように、跡も残さずに消え去った。 それと同じように、白銀の車輪が揺らぎ、アリアンフロッドの姿も消えてゆく。 なのはは、召喚のショックからか、呆然とその光景を眺めていた。 「わたしが……ペルソナを、出せた……」 やがて呟いた一言には、紛れもない驚きが含まれていた。 あのとき自分は何をした?無我夢中で、心が導くままにトリガーを引いたのは覚えている。 あのときの不思議な感覚。シャドウに対する恐怖のくびきが抜き取られ、すべてがクリアに、鮮明に感じられた。 言葉にするなら……そう、覚醒。あれが、もう一人の自分。 アリアンフロッド、それがわたしのペルソナ。 わたしは、ペルソナを得たのだ。 余韻に浸る暇もなく、なのはは眩暈を感じると、そのまま意識を失い、倒れこんだ。 それからほどなくして、影時間が明けた。 最後のシャドウを消し終えた綾也の息は、少し上がっていた。 小一時間ぶっ通しで、唯一人現れるシャドウを倒し続けるのは、相手がいくら雑魚とはいえ消耗を強いられるものだった。 ともあれ、綾也は通常の時の流れに身を戻し、六課への帰路を急いだ。 何故か、自然と早足になる歩みを抑えられない。 問題はないはずだ。なのに、何か嫌な予感がしていた。ぼんやりと、実体をもたない漠然とした不安。 僕は、何か見落としをしている――? 何を見落としているのか。それがわかれば、スッキリするものを。 しかし、この不安は杞憂ではないと、直感的に感じていた。 ……急ごう。綾也は、ついに走り出した。 前へ 目次へ 次へ
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第三章『彼方の行方』 我等はこれより道を行く 奴等は後ろから見てるだけ 全てを知るから我等に託し ● 不意に戻った感覚が、佐山に身を包む暖かさを知らせる。 ベッド、か? 横倒しの身、背面にはシーツの硬さ、前面には掛け布団の軽さがある。 瞼を開けて見えるのは白い天井と灯る蛍光灯、身を起こせば同色の部屋や配置物も確認出来る。瓶の並ぶ戸棚、モニター付きの机、壁には午後八時半を示す時計がある。それらが佐山に現在位置を予測させた。 「医務室、か」 む? そこで佐山は違和感を得た。言葉が覚えの無い声で紡がれたからだ。 「――女性の声?」 今も出るのは女性のもの、思えば妙に身も軽い。そこで佐山は部屋の角に鏡を発見、ベッドから移動する。 「今度は一体何だ?」 最早楽しみですらある異常事態、鏡の前に着けば自身の姿が見れた。 「・・・誰だ君は」 女性が映っていた。赤い瞳と銀色の長髪、体つきも如実に現すタイトな黒服。体格も顔の造形も、その他全てが佐山本来のものと異なる。だが一つだけ、本来の姿と共通するものがあった。 「腕の傷痕。・・・私が異形から与えられたものか?」 川沿いで人狼の牙を受けた位置、そこには白く膨らんだ円形の皮膚がある。それを見て思うのは、あれは夢ではなかった、という確認と、あの深い傷がもう治るのか? という第二の疑問だ。 だが当面の問題は、この姿だ・・・ どーしたものか、と佐山は考えていると、かつて見ていた特撮“帰って来たトラウマン”を思い出す。 あれは全裸巨人に変身して都心で戦うというトラウマを抱えた主人公が、しかし秘密組織によって連れ戻されて戦わされるという人格矯正をテーマとする作品だ。それに寄ると変身する原因は、 「体内にスガタカワリンが溜まる為・・・!!」 そこで気付いた。女性の異常に膨らんだ胸部に。 ここにスガタカワリンが溜まっているな!? 佐山は確信、即座に掴んで絞る。出ろ諸悪の根源め、と思いを込めて。そうすれば、 『・・・何をしている、お前は』 突然、脳内に声が響いた。 出たな、スガタカワリンの精め・・・!! 『・・・何だそれは』 佐山は声を無視、より一層の力を込めて絞る。 『――もう少しユニゾンした方が良いのだが。・・・解った、出るからもうやめろ』 脳内音声の屈服と共に変化が起きる。佐山の体から人影が出て来るという変化が。それは、先ほど鏡に映ったのと同じ姿の女性だった。横目に鏡を見れば、簡素な寝間着を着る佐山本来の姿がある。 「・・・よもやシャマル達以外に手を出す者がいるとは」 銀髪の女性は佐山を見て溜め息。誰だ、と佐山は問おうとし、 「何やってるんだよ君は!」 顔面にスリッパを叩き付けられた。聞き覚えのある声と共に。 「・・・新庄君」 医務室のドアを背景に立つのは、茶色のスーツにスカート姿の新庄だ。 「見舞いに来れば君って人は! 覗き魔じゃなく変態だったんだね?」 「誤解だ新庄君。私はこのスガタカワリンの精を体から搾り出すべく・・・」 「何だよスガタカワリンって! 君の脳内物質!?」 「まあまあ、そのぐらいにしときましょ?」 新庄の後ろ、ドアを閉めて新しい人影が入ってくる。新庄と同じ茶色のスーツ、その上に白衣を着た金髪の女性だ。 「でも佐山君だっけ、貴方良い目をしてるわね? ・・・リインの胸に目を付けるなんて」 「先生っ!」 うふふ、と黒い笑いを浮かべる女性に新庄が注意する。 「・・・誰だ貴女は。それにここは一体・・・?」 「ここは時空管理局っていう組織の医務室よ。私は医療関係の長でシャマル、こっちは補佐を兼任してくれてる、リインフォースよ」 「先生、何言ってるんだよ! それは機密事項で・・・」 「隠す必要は無い」 それをリインフォースと呼ばれた銀髪の女性が遮る。 「どのみち彼はこの時空管理局へ来る事になっていた。・・・そうだろう? 佐山・御言」 「・・・私が呼ばれたのはIAIだが?」 「そのIAIの裏の顔だ、この時空管理局・地上本部は。・・・IAIの最奥地下に隠された主要施設、IAI社員達でも知らない特殊区画だ」 「・・・本当はね、問われても答えちゃいけないんだよ?」 囁いてきた新庄に、そうか、と頷きを返し、 「――ではリインフォース君とやら、君は何故私にそんな事を話す。・・・君にその権限が?」 「権限があるのは私ではない、お前だ」 話そう、とリインフォースは続け、シャマルは可笑しそうに喉を鳴らして笑う。 「お前は見てきたな? 山中で空間の異変や人狼を。――あれらはかつて滅んだ十の異世界、その残滓だ」 ● 「・・・で? そんなトンチキ話を私に信じろと?」 リインフォースの眼前、佐山が茶色のスーツを着込みつつ言った。着替えとして渡した地上本部の制服で、手首には自弦時計も付けさせた。着替え終えた佐山の右手には耳まで赤くした新庄の後ろ姿と、 「何考えてるの佐山君、女の子三人の前で生着替えなんてっ!! ・・・眼福だわぁ」 「前後の台詞が一致していないのだが? 大体貴女が女の子という歳かね」 薄ら笑いを浮かべたシャマルを一刀両断、リインフォースに佐山が向き直り、 「で、リインフォース君。・・・嘘ならもっとマシな事を言ってみては?」 「嘘ではない。まずは結論に至る説明を聞いてくれないか」 抗議に喚くシャマルを背景にリインフォースは答える。佐山はしばし間を空け、 「いいだろう。ここで頭から否定しても仕方が無い、話してみたまえ。・・・十の異世界があって、何故それが滅びた?」 ああ、とリインフォースは頷き、 「十の異世界はこの世界を中心とし、一定周期で交差して影響を与え合っていた。しかしある時、全ての交差周期が重なる事が判明した。そうなった場合、最も強い世界だけが生き残り・・・他は全て滅びる事も」 「それはいつの事かね? まさか明日とでも?」 「予測での衝突時刻は・・・この世界で言う一九九五年とされていた」 「・・・そんな事は起きなかったが?」 「当然だ、全ての異世界はそれ以前に滅ぼされたのだから。・・・お前の祖父達によって」 何? と佐山は返し、新庄も初耳だったのか目を丸くする。 「リインさん、どういう事? 佐山君、だっけ。まさか彼、八大竜王の孫って事・・・?」 「――八大竜王?」 十の異世界を滅ぼした者達の総称だ、リインは短く答え、 「そうだ、新庄。・・・この少年の祖父の名は佐山・薫、二つの異世界を滅ぼした男だ。そして我々は世界の存亡を賭けたその争いを―――概念戦争と呼んでいる」 そこまで聞き、佐山は顎に手を当てる。ここまでの説明を吟味する様に。 認めるか? 佐山の孫・・・ リインフォースは佐山の答えを待ち、そして出された佐山の答えは、 「条件次第では信じても良い」 というものだった。その言葉にシャマルが軽く驚き、 「あら、随分早く納得するのね」 「言っただろう、条件次第で、と。・・・それに私の中には君達を肯定する記憶がある」 「・・・山中での記憶、か?」 あぁ、と佐山は頷く。 「閉じられた空間、脳裏に響いた声、有り得ない異形、炎を吹く貴金属、さっきリインフォース君が私の体から出てきた事も含めてもいい。・・・そして極めつけは新庄君の感情だ」 「ボク・・・の?」 新庄が佐山の顔を見た。佐山は深々と頷き、 「あの時、君の表情は本物だった。真性の恐怖と緊張、腹に浮いたあの冷たい汗は演技で出せるものではない。・・・そう、腹に! 露にされた君の腹に浮いた汗は! 真なる君の感情!!」 「腹腹連呼しないで! ・・・ていうか誤解されるからやめてよ!?」 新庄が佐山のネクタイを牽引、喉を封鎖して言葉を止めさせた。 随分仲が良いのだな・・・ 慌てる新庄と痙攣する佐山、それを診るシャマルを眺めながらリインフォースは思う。 「――で」 顔を青ざめつつ佐山が復帰。リインフォースに向き直り、 「確かに異常事態はあった、しかしあれらが異世界の証明とはなりえない。世界は存在するからこそ証明されるのだからね。・・・十の異世界の存在証明は出来るのかね?」 「厳密な意味では出来ない、もう滅びているのだから」 しかし、と続け、 「解るだろう? どんな現象もある一定以上はトリックと考えない方が自然となる。異世界も同じだ、ある一線を超えた時から世界は別世界となる。・・・シャマル」 「はぁい。―――クラールヴィント」 佐山の隣、シャマルが腕を伸ばした。その人差し指と薬指には金の指輪がある。 『お呼びですか、ロード』 シャマルの指輪から女性の声が響いた。 「・・・人語を解する指輪とは。呪われていたりするのかね?」 「違いますぅっ! この子は私の大事なデバイスなんだから!! ・・・クラールヴィント、この失礼な子に見せてあげて? ・・・概念という、異世界の力を」 『Tes.。――近辺の概念をトレース、合一展開します』 金の指輪が小さく光り、 ―――地に足がついている。 世界が一変した。 ● 佐山の脳裏に響くのは自分のものに似た声、山中で聞いたものと同種だ。だが今回は別の異変もある。 「――腕時計が」 先ほどスーツと共に渡された黒い腕時計、それが振動していた。文字盤に一瞬赤い字が走る。 仕掛け時計か・・・? 見れば時計はその針を止めていない。山中ではあらゆる機械がその動きを止めていたのに。 「それは自弦時計という、概念空間に入る為のストレージデバイスだ」 リインフォースが腕時計を指して言う。 「デバイスとは?」 「概念を扱う機械達の事だ。多くは自我を持たないストレージデバイスという機種で、それはその一つだ。・・・シャマルが持つクラールヴィントの様に、意思を持つものもあるが」 「概念空間に概念? ・・・何だそれは」 「――説明しよう」 リインフォースは机へ移動してモニターを操作する。映されるのは、十の球体が一つの巨大な球体を囲んで並ぶ映像だ。 「十一の世界は歯車に見立てられ、Gと呼ばれていた。それぞれ1stーG、2ndーG、3rdーGという風に呼び分けられ・・・それぞれ個性を持っていた」 十の球体に1stから10thまでの数字が割り振られる。 「各Gの常識は全く異なっていた。あるGでは文字が能力となり、別のGでは金属が命を宿した。理屈も何もない・・・“それはそういうものだから”としか良い様の無い根本原因、それを概念と呼ぶ」 そこで映像は、“概念”と書かれた一つの球体が浮かぶものに切り替わる。 「概念を含んだ区域を概念空間、入った際に聞こえる声は概念条文と呼ばれる。概念条文は含まれた概念の象徴で・・・一定以上の強さを持って初めて声に聞こえる」 球体は大きな半球型となり、載せる字も“概念空間”と“概念条文”へと変わる。 そして急接近して内部に侵入、今度は波形が表示された。 「私達は概念を、変化する一定周期の震動波・・・つまり自弦振動だと考えている」 「ならば十のGとは――各々で自弦振動の周期が異なった世界という事か」 その通り、とリインフォースは応じ、それと同時に波形が三本に増えた。 「自弦振動は三種存在する。一つは世界そのものの自弦振動で、他の二つは世界に存在する全てのものが持つ自弦振動だ。所属Gを示す母体自弦振動と、個性を示す個体自弦振動という」 「ふむ。・・・三種の自弦振動、か」 「難しい事は無い。世界の自弦振動は地方別の風土、母体自弦振動は姓、個体自弦振動は名前の様なもの、そう思えば良い」 成る程・・・ 「名前が違えば別の人、姓が違えば別の家系とされるのと同じか。ならば山中で私が閉じ込められた空間は姓、・・・母体自弦振動のズレた空間か」 「少し違う、母体自弦振動が完全にズレればその空間は掻き消える。あれは母体自弦振動を一部ズラしたものだ。そうすればズレたものは二分化する。通常空間側と異世界側の両方、同時に重なって」 「あの山中は・・・通常空間側と異世界側に二重化したのだな? 振動差で異世界側にあるものはそこから出られず、通常空間側からの影響も受けない」 要するに、と佐山は区切り、 「世界の一部を間借りして異世界を再現する、・・・それが概念空間か」 「そう。そして概念空間を出入りするには母体自弦振動を合わせる必要がある。その変調を起こすものは“門”と呼ばれ、それを発動するのがその自弦時計だ」 リインフォースの指摘に佐山は黒の腕時計を見やる。機能の割に随分小さな機械だ、と思い、 「・・・ではこの時計を持っていなかった私が概念空間に入れたのは?」 「お前の個体自弦振動を密かに読み取り、入れるよう概念空間に登録させた者がいると聞く。・・・大方、大城の孫だろう」 聞き覚えのある姓に佐山は気付くが、しかし今は最後の確認を、との判断で後回しにする。 「・・・で、ここがその概念空間という証拠は?」 「それについては自分で確認した方が早いわ」 シャマルの声に佐山がそちらを見やれば、 「――壁に、立つだと?」 シャマルはドアのある壁、そこに垂直に立っていた。佐山から見てシャマルの体は真横に見える。 「今この部屋に展開されている概念条文は“地に足が着く”。つまり足裏側が下となり、引力の方向は個人で異なるの。・・・5thーGの概念を変化複製させたものなのよ?」 「真横の顔に話されるのも妙な感覚だが・・・変化させた複製? 新しくは作れないのか」 「概念は世界の根本、洒落て言うなら神の創造物よ? 人の身で作るのは矛盾するわね。・・・研究はされたそうだけど成功例は聞かないわ。今は劣化版、せいぜい亜種を作るのが精一杯」 「・・・これで解ってくれたかな、佐山君?」 新庄は窺う様に言う。その声色に浮かぶのは、やっとかな? という期待だ。しかし佐山は、 「あと一歩、かな。もう少し現実離れして欲しいのだが」 「・・・注文の多い人だね」 新庄は溜め息をつく。その様子にシャマルは笑みつつドアまで移動し、 「だったらこんなのはどうかしら?」 シャマルはしゃがんでドアを開く。そこに見えるのは通路ではない。 「・・・何だこれは」 見えたのは巨大なフロアだった。そこには作業着姿の人間達や異形達があり、それに稼働練習なのか巨大な人型ロボットがタンゴを踊る姿もある。シャマルと同じく、壁も天井も床として。 「あっちは元々地上本部で展開されていた概念空間ね。今私達がいる概念空間は、クラールヴィントがそれを読み取って展開したものなの。・・・同種だから連結させる事も出来たって訳」 「どうだ? これで私達の話を信じてもらえただろうか」 佐山は軽く頭を抱え、 「――ああ良いだろう。認めようじゃないか、その異世界とやらを。否、こんなトチ狂った事実がこの世界の現象と言えるものか」 新庄とシャマルは、やったぁ、とハイタッチ。リインフォースは薄く笑っていた。 ● フロアの人々に挨拶して扉を閉め、佐山達は話を再開した。 「つまり概念戦争とは、概念の所持量を巡る争いだった訳か」 「そうだ。世界そのものと言える超密度の概念、それを概念核というのだが・・・それを五割以上を失うとGは滅びる。そして現在、十種の概念核は全てこの世界にある。管理局が全て持つかは別にして」 「時空管理局は、そういった時も空間も異なる異邦人達に対応、管理する為に設立した組織って事ね」 「最初は本局っていう所だけだったんだけど、概念戦争に出る為にこの地上本部が作られたんだって」 「そして佐山・薫は初期の地上本部に所属、その一員として十のGと戦い、概念核を奪い滅ぼす事で戦いを終わらせた。――この世界の勝利でな」 ふむ、と佐山は応じ、 「それについていいが・・・しかし解せない。何故今になってそれを話す? 祖父が亡くなったから、という訳ではないだろう?」 あ、と新庄は口を開ける。 「そ、そう言えば何で?」 「新庄ちゃん・・・何も知らずに説明してたの?」 だって、と涙目の新庄にシャマルは苦笑し、 「それはね? この世界、LowーGが・・・再び滅亡の危機に瀕しているからよ」 「何?」 その答えに佐山は身を乗り出す。それはどういう事だ、と。 「それに抗う為に管理局は一つの計画を起こした。全竜交渉という計画を」 「交渉・・・? 一体誰と交渉するのかね。いや、それよりも世界の滅びに抗う手段が?」 ある、とリインフォースは答え、それは、と続けようとした。その時、 「それ以上言ったら困っちゃうでなーッ!?」 突然医務室のドアが開き、一つの物体が飛び込んだ。 それは老人だった。眼鏡をかけた初老の男、それがCの字の体勢で飛来したのだ。 「・・・ッ!?」 佐山は反応、右の拳を初老の腹に叩き込む。そうすれば今度は>の字になり、ドアの向こうへ飛び戻る。 今の顔と声に覚えが・・・ しかし佐山はかぶりを振る。あんな珍動物を知る筈が無い、そう思うからだ。だが、 「・・・ふ、ふふふ。葬式以来だな、御言君。――覚えておるかな? この大城・一夫を」 吹っ飛んだ老人が戻ってきた。今度は這いつくばった姿勢で、トカゲの様に。その顔に佐山は、あぁ、と頷き、 「そう言えば私は貴方に呼ばれたのだったな、御老体。・・・どうした、そんな這いつくばって。客を呼んだのなら茶の一つも出したまえ」 「うわ久しぶりに腹が立つナイス反応じゃな!?」 見下ろす佐山に大城は立てた親指を下に突き出す。それから佐山はリインフォースに今一度問うた。 「一つ聞き忘れたのだが・・・概念空間内で破壊があった場合、どうなる?」 「ああ、概念空間には元々存在したものの自弦振動が一部使われている。一度壊れた位ならば問題無いが・・・幾度も使用すれば何らかの形で本体にも被害が及ぶだろう」 「リ、リインちゃん!? そんな不吉な事言っちゃ大城泣いちゃうでなー!?」 「大城全部長! その穢れた口でうちのリインを呼ばないで下さい!」 「何っ? わしの発言って全否定ー!?」 シャマルは大城に詰め寄り、しかしリインフォースはどちらも無視して、 「しかしこれに生物は含まれない。少量の自弦振動では生命力に乏しく、未来への可変性も無い。動くだけですぐに砕けてしまう」 「山中の概念空間に動物がいなかったのはその為か。・・・つまりここにいる御老体は生100%か、実に汚らわしい」 「あ、汚らわしいになった! 穢らわしいから汚らわしいになったよ!?」 「・・・何を言っているのかね、どちらも同じ言葉ではないか」 「何か違うのっ! こう、含まれたグレードというか意味合い的なものがー!!」 うわぁん、と大城は泣き真似。佐山達は、痛いものを見た、という顔でそれを見下す。 「あ、あの皆!」 そこに新庄の声がかかった。 「大城さんが何しに来たか聞くべきだと思うんだ! 地上本部全部長が来るからには何か訳がある筈だよ!」 「だそうだが御老体、何か弁明はあるかね?」 「いきなり問い詰め系!? ・・・だってリインちゃんに全竜交渉の事まで言われたら、わし、出番無くなっちゃう」 「よーし諸君、今からこの痛い老人を拷問にかけようと思うのだが?」 「さんせー」 「異議はない」 「し、新庄君! 今わし酷い目に遭いそうなのだが助けてくれんかね!?」 「・・・」 「そっぽを向いちゃいやぁーッ!?」 それから数刻、包帯で簀巻きにされた大城に佐山は、 「で? 止めたからにはしっかり説明して貰おうか。全竜交渉とは何だ?」 「老人虐待の若人には教えないもんっ。・・・あぁうそうそ、だからその座薬はしまってお願いだから」 ふう、と大城は溜め息を一つ。 「この世界がマイナス概念で滅びそうなのは聞いたでな? それを知った管理局は全概念核を解放、このLowーGを強化してそれに対抗する事を決定した。その為に各Gの生き残り達と交渉し、概念核の使用許可を得ねばならん」 ふむ、と応じた佐山に大城は言った。 「それが全竜交渉。・・・そして我等が八大竜王、佐山・薫はその交渉役を君に譲ると言ったのだよ」 ● 「―――これが1st-G勢力の現状となります、至様」 Sfが書類を机に置いた。至はそれに反応もせず、書類の一枚を取って紙飛行機を作る。それを飛ばせばSfの額に当たり、 「・・・何か反応したらどうだ、Sf」 「では・・・至様、その折り方では空気抵抗が増えて飛び難いかと」 「そこじゃないだろ言うべきは!? ・・・全くつまらん奴だなお前は」 「Tes.、それが至様のご要求ですので」 そう答えたSfに至は、はん、と鼻を鳴らて残った書類を見やる。 「管理局に恭順した和平派、奴等を引き込もうと交渉に来た王城派の人狼は死んだ、か。それを発見した通常課にも死者数名、Sf、お前これをどう思う?」 「後の1stーGとの全竜交渉で、交渉材料になるかと」 「彼等の犠牲は無駄にしない、と言うんだ馬鹿。・・・覚えておけ、とりあえず表向きはそう言う、と」 「Tes.、ですが意訳として解り難いかと」 解り難いからこそ良いんだよ、と至は呟き、しかし、と続ける。 「親父も大変だな、王城派みたいな雑魚に振り回されて。1stーGの概念核、その半分を持つのは奴等ではなく市街派だというのにな」 「それ故に市街派は高い戦闘力を有します。迂闊に手を出せば被害は甚大かと」 「だから佐山・御言を交渉役にする、か? あんなガキに随分入れ込むな、親父も。・・・随分甘くなった」 「かつての一夫様は今と違ったのですか?」 「ああ、昔はそれこそ俺達を死地で鼓舞したものだ。・・・今は影も形も無いが」 「・・・全竜交渉とは如何様にして行われるものなのでしょうか」 「知りたいか」 「いえ別に」 「では教えてやる」 至は再び書類を一枚取り、手元で折っていく。 「十のGはそれぞれ独自の概念で作られていた。それらを総じてプラス概念というが、・・・逆にこのLowーGは何の力も無い、むしろ害を有するマイナス概念で作られていた」 「Tes.、それ故にLowーGは最底辺の世界とされ、真っ先に見捨てられたと」 「ああ、マイナス概念などあっても仕方ないからな。十のGは己の世界が滅びるのを厭い、LowーGを戦闘の場所に選ぶ事も多かった」 「各Gの生き残り達がLowーGに向ける遺恨はそれですか? 最底辺の世界が生き残った、と」 「理由の一つに過ぎんさ。・・・だが結果的に十のGは滅び概念核はLowーGに持ち込まれ、多くは管理局によって封印された。これが解放されればLowーGの常識が崩れるからな」 言葉の合間に紙を折り、擦る音が響く。 「だが十年前、ある事件を期に概念核が活性化した。放置すればLowーGが今よりも、それこそ自壊する程マイナスへ傾く事が解ってな、最早世界が変わるのを覚悟しての事だった」 しかし、という区切りが入り、 「分割された概念核は恭順しない生き残りが持つものも多く、その使用許可を得る為の・・・交渉が必要となった」 今さら勝者気取りで好き勝手は出来んしな、と至は笑う。 「マイナス概念の活性化に対抗してですか? ぶっちゃけ真実とは思えませんが」 「その証拠はお前自身だ、Sf。お前の体を造る技術元、3rdーGの戦闘機人達が何時目覚めたのか言ってみろ」 「・・・一九九五年、十二月二十五日です」 「そして聖者誕生と浮かれる日本で、その日何が起きた?」 「Tes.―――関西大震災が」 「そうとも。大阪を中心にして関西広域に広がった大災害。あれを期に概念核が活性化、LowーGにも僅かだが概念が漏れ出し、彼女達もギリギリで動ける様になった」 「・・・」 「マイナス概念の活性化は今も進行中、臨界点は活性化より十年後と予測されている。・・・つまり」 「二〇〇五年、今年の十二月二十五日ですか」 Sfの確認にも応えず、至は折り紙と化した一枚を書類の上に置く。その形を見たSfは、 「船、ですか?」 「馬鹿め、塔だ。・・・こう見るんだよ」 そう言って至は折り紙の置き方を変えた。そうすれば、確かに突き立つ塔に見える。 「これが、全ての始まりだ」 ● 黒い風は深夜の空を流れる。 漆黒に重ねられた漆黒は見る者にそれを判別させず、文字通り疾風となってある場所に入り込む。 そこで一つの偶然があった。疾風となったそれが、その場所である少女にぶつかったのだ。 その身の体現と同じ名を持つ少女に。 「ひぇっ!? ・・・か、風か? 驚かさんといて」 八神・はやて。黒の風は尊秋多学院校舎で、彼女の髪をそよいだ。 ―CHARACTER― NEME:大城・一夫 CLASS:地上本部全部長 FEITH:史上最高の変態 戻る 目次へ 次へ
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10日ぶりの更新である。というわけで文字通りやりたい放題やった結果が、今回のフェイトの大冒険である。手持ちのアイテムを少しづつ無くしていって、最後に何も持たなくなった時に、求めるものを得られる、という文法は、ロシアの童話では結構頻繁に使われていたと記憶してる。そういう意味では、今回のお話は書いていて非常に楽しかった。やはりオーソドックスなものはオーソドックスであるだけの事はある、ということであろう。 フェイトは基本的に食が細い。そして極めて幸運なことに、これまでの短い人生の中で飢えるという経験をしたことがなかったりする。さらに、一般庶民の食事は一日二食であるのが当たり前の世の中で、三度三度欠かすことなく食事をすることができていた、ということも理由としてあった。食べ物にがっつかなくて済む環境で育ったことが、彼女の口をきれいにしていたといえる。 「先輩が焼いてくれた焼き菓子だ。さあ、食べたまえ」 「はい。ありがとうございます」 そして何かというと、こうして食べ物を勧めてくれる人にこと欠かなかったせいで、食べることにさほど執着を持たずに済んだともいえた。 自習室で教科書に目を通すつもりでいたフェイトは、気がつけばノイナに勧められた薄焼き菓子を一枚とって端から少しづつかじっていた。一人机に座って数学の教科書をひろげようとしたところで、ノイナが声をかけてきたのだ。その教科書はすでに何回か目を通していたため、断る必要もないだろうと席を一緒にする申し出を受け入れたところ、さっそくお菓子を勧められたというわけである。 丁寧に挽かれた上質の小麦粉に、卵と砂糖と牛乳をふんだんに使ったとても美味しいお菓子であった。香り付けにナツメヤシの実から抽出した果汁を使っているのか、とても甘い。 基本的に外から食材を搬入しなくてはならないこの「学院」で、どうやって生ものである卵と牛乳を入手したのか、それがフェイトには不思議であった。もっとも、魔導を行使することをクラウディアから禁止されているため、その来歴を観測するようなことはしなかったが。 勧められた焼き菓子を一枚食べ終わると、フェイトはにこにこと微笑んでいるノイナにぺこりと頭を下げて感謝の気持ちを表した。 「ご馳走になりました」 「遠慮することはない。さあ、もう一枚ゆきたまえ」 「ありがとうございます。ですが、夕食が食べられなくなります」 「ははっ、君は本当に小食だなあ! まるで小鳥のようだ」 なにが嬉しいのか、ノイナは声をあげて笑う。フェイトにとって間食とは、誰かに勧められるか、お付き合いで食べるものであって、特に自分から食べたいと思ったことがなかった。なにしろここしばらくは第901大隊の営舎で暮らしていたのだ。軍隊式のこってりとしていて量のある食事を三度三度食べていたのである。それだけで十分お腹がくちくなる。「学院」の食事も、おかずが一品少ないくらいで、味はともかく量だけならば十分なものがあった。 フェイトと一緒に焼き菓子を口にしていたノイナが、嬉しそうに話を続けている。 「先輩の焼く菓子は、本当に美味しいなあ。うちから砂糖を取り寄せた甲斐があったというものだ」 「砂糖の精製をしているのですか?」 「そうさ。砂糖大根の栽培をやっていてね。いや、他ににも色々と手広くやっているのだが、あまり無心するのもはしたないからなあ」 領主というものは、できる限り自分の領地で採れたものでやってゆくのがたしなみなのだ。 自慢げにそう答えたノイナは、ぱちりと片目をつむってみせた。 そんな彼女のフェイトは目の前に山とある焼き菓子を見て、そういえば無名やクラウディアはこれを口にしたらどういう感想を述べるのだろう、と、興味を抱いた。確かにこの菓子は、ノイナが自慢するだけあって、大層美味しい。 二つ折りにされている袖のカフからハンケチを取り出したフェイトは、お菓子を何枚か包んで席を立った。 「ああ、ウェーラが焼いたお菓子だね。美味しかったよね」 「はい」 離れた席でアウレリアと一緒に勉強をしていたクラウディアのところにお菓子をもっていったフェイトは、これを焼いたのがクラウディアの友人であることを聞かされた。すでに二人とも同じものを口にしていたようで、ハンカチに包まれた焼き菓子を見て嬉しそうに微笑んでいる。 「フェイトさんは、どちらでそれを?」 「ノイナさんから頂きました」 「ああ、ウェーラと同室の子だね。そっか。さっそく友人ができたみたいでよかったよ」 「ケイロニウス御一門の方とうかがっていましたけれども、仲良くやっていらっしゃるようで良かったですね」 話は焼き菓子からノイナのことに移っていて、フェイトはそれにどう反応したらよいのか迷った。 皇統であるケイロニウス一門が「帝國」では大変に大きな存在であるということは、「学院」に入学してしばらく過ごすうちに実感として理解できた。なにしろレオニダス公爵家姫君のノイナと同じ学級なのである。学友達が畏れを抱いてか、あまり彼女に近づかないようにしているのを見れば、いやでも判るというものである。敬して遠ざけられるとはこのことであろう。そんな彼女だからこそ、特に畏れたり取り入ろうとしたりしないフェイトに、こうして好意を示すことができるのではないかと思ったのだ。 二人がすでにこの焼き菓子を口にしているのであれば、特にここにいる理由はなくなる。 次は無名に食べてもらおうと思って自習室を見回してみるが、どこにも彼女の姿は見えない。 無名はどこにいるのか、それをクラウディアに聞こうと視線を向けたところで、足音も高く近づいてくる少女がいた。 「クラウディア、無名を見なくて?」 「いや、見ていないけれど? 何かあった?」 「あの子! 人が勉強をみてあげるというのに、それを断るなんて!」 一期生学生代表のセレニアである。長く真っ直ぐの黒髪を後ろに流し、萌黄色の髪留めでとめて秀でた額をあらわにしている。何か気に入らないことでもあったのか、まなじりを決していて、肩をいからせていた。普段はつとめて優雅に振舞っている彼女が、こうも感情を激発させている姿を見せるのは、それはそれで珍しい。 「そっか。それで?」 「私が、復習を見てあげるから、と言ったらなんて返事したと思って? 「勉強は嫌いだ。だから授業中だけで済ませるようにしている。いい」ですって!! まったく、次の試験で上位に入らなかったらただでは済まさなくてよ」 「あはは。無名らしいや」 「笑い事ではなくってよ!」 確かに無名らしい、と、フェイトも思った。 ナタリアに「学院」受験のための勉強を見てもらっている時も、はっきりと興味なさげな様子であったし、そもそも自習室で教科書を開いているところを見たことがない。そういえば、彼女は二言目には、あいつがいるから入学するんだ、と、口にしていたか。 フェイトの記憶では、無名はむしろ本はよく読んでいたようであるが、自分の興味の向かないことにはまったく見向きもしないのが彼女らしいといえばいえた。 腹立たしさに頬を上気させているセレニアに、フェイトは両手で包みを開いたハンカチの上の焼き菓子を差し出した。 「いかがです?」 「あら、ウェーラの焼いたお菓子ね。ありがとう。でも私も頂いているの。気持ちだけ受け取っておくわ」 一瞬前の激発が嘘の様に落ち着いた様子になって、セレニアはフェイトに向かって微笑んだ。 「取り乱したところを見せてしまってごめんなさいね。ええ、もう大丈夫よ。それは貴女がお食べなさい」 「はい」 「本当にあの子、勉強が終わったらこれを食べさせてあげようと思っていたのに。今日はお預けね」 まったくもう。憤懣やるかたない、という口調でそう言葉にしたセレニアに向かって、ぺこりと頭を下げたフェイトは、無名を探すべくその場を離れた。 無名は基本的に人見知りする上、気分を害するとすぐ殺気立つ。そんな彼女がのんびりとした時間を過ごすには、誰か人の気配のしないところが必要である。「学院」の敷地は広いが、かといって人の気配のしないところ、というのが難しいところであろう。何がしかの必要があってのこの広い敷地なのであり、ゆえに何がしか人の気配があるものなのだから。 フェイトは、脳内に「学院」の敷地を地図として展開し、そのどこならば無名のいる可能性が高いか考察した。 寄宿舎、ということはまずない。この学院で最も他人の気配が濃く、彼女にとって最も居心地が悪い建物であるから。 校舎、これもない。今の時間帯は、課外活動のために多数の学生がおり、人目を引きたくない彼女が近づく可能性は限りなく低い。 講義棟、図書館、食堂、職員棟、礼拝堂、以上どこも同様の理由で除外。 倉庫棟。ここの近辺ならば、基本的に人の気配はしないはず。そこは今すぐ必要ではないものを格納しておくための場所であって、常に人がいるわけではない。この近辺ならば、人の気配のない場所があるだろう。 フェイトは、入学以来あちこち歩き回って自分の目で確かめて廻った経験をいかして、倉庫棟に向けて歩き出した。 「「「眠りは甘い砂糖菓子、もろくも崩れて再びの地獄♪」」」 フェイトが倉庫棟の近くにまで足を運んだところ、透き通るような美しい声色で、だがコブシの効いた腹の底から出される腰の据わった歌声が聞こえてきた。 「「「ゆらめく影は、よみがえる悪夢♪」」」 フェイトの記憶であれば、この歌は兵隊歌謡のはず。少なくとも、修道会系の学校で女生徒が歌っているはずのない代物である。 誰が歌っているのだろう。存在するはずの無いものが現実にはここに在る。その事実に興味が沸いたフェイトは、そっと気配を忍ばせて歌声のする方に近づいていった。 「「「炎に焼かれ煙にむせて、ここで生きるがさだめであれば、せめて望みはぎらつく孤独♪」」」 歌っていたのは、食堂でフェイトの右隣に座しているダリアという二期生学生代表の娘と、最近になってその隣で食事をするようになったルスカシアとアルブロシアの三人であった。 歌のリードをとっているのはダリアで、それに音階を合わせてルスカシアとアルブロシアが歌っている。三人の中ではダリアが最も歌が上手で声量も音感も抜群であった。アルブロシアも声量で敵わず、腹ではなく喉で歌っているところがあったが、音感は決して悪くはない。最も下手なのがルスカシアで、大声で叫ぶようにして声を出している上、音階など無視して調子っぱずれで勢いのままに歌っていた。 腕を振るい、全身を揺らして歌う様は、礼拝堂で練習している聖歌隊の学生らとは正反対の様子であったが、それでも歌うことの楽しさを三人揃って全身をつかって表現していた。 「はぁはぁ、いやー やっぱ人数いたほうが気持ちいいじゃん。な、次「さよなら兄弟」いこうぜ、ダリア」 「待てってばよ。少し休ませろっての。あー 水、水。っと、アルブロシアも飲め」 「うん。ありがとう」 一通り歌い終わってから水筒の水を回し飲みし始めた三人の姿を見て、フェイトはここにも無名はいなさそうだと見当をつけ、くるりと背を向けて立ち去ろうとした。 だが、なんの偶然か、ルスカシアがフェイトの後ろ姿を見つけて声をあげた。 「おぉうっ!! ふぇいとだ、ふぇいと!!」 「は? 誰だよ、そいつ?」 「お前の左隣に座ってる子だってば! おーい、ふぇいとぉー 一緒に歌おうぜー」 「おい、待て、なんでそぅいう話になるんだよ、お前はさぁッ!!」 目ざとくフェイトを見つけたルスカシアが、猛然とダッシュをかけ、フェイトに向かって飛びつく。 それを避けて逃げるくらいフェイトにとっては特に難しいことではなかったが、しかし、魔法を行使することを禁じられているのと、ここで逃げ出しても食堂であれこれ詮索されることが明白であるため、この場はあえてルスカシアのなすがままにさせることにした。 「そぉいっ!!」 そのままフェイトに跳びついたルスカシアは、ぎゅっと抱きしめると、少女の金髪の頭にほほを摺り寄せ、すんすんと匂いをかぐ。 「うおっ! すげぇー ぷにぷにでさらさらで最高ぉーっ!!」 「なにオヤジ臭ぇこと抜かしてんだ、お前はよッ。ほれ、こいつ驚いているじゃねぇか。離れろってばッ」 「……ごめんなさい。大丈夫?」 「はい」 うっとりとした表情でフェイトの全身をぺたぺた触り始めたルスカシアをダリアがひっぺがすと、アルブロシアが腰をかがめてフェイトの顔をのぞきこんだ。 背が高く大人びたアルブロシアが気遣わしげな表情をしているのを見て、フェイトは、ぺこりと頭を下げた。 「お邪魔をしたようで、ごめんなさい」 「ううん、平気だよ。こちらこそごめんね、驚いたでしょう?」 「いえ、大丈夫です」 跳びつかれた時に、よろけて倒れそうになったものの、半身になり腰を落として構えておいたおかげで転がらずに済んだ。そして、ぎゅっと抱きしめられたり、頬をすりよせられたりするのは、ナタリアを相手にしていることもあって特段驚くようなことでもない。 だが、そんなフェイトの側の事情を知るよしもないアルブロシアは、そっと軍用水筒を差し出した。 「回し飲みでごめんね。湯冷ましだけれども飲む?」 「頂きます。ありがとうございます」 手渡された水筒を両手を持ち上げて、一口水を含む。歩き回っていて身体が水分を欲していたのであろう、その湯冷ましは大層美味しかった。 「いかがですか?」 湯冷ましのお礼のつもりで、ハンカチで包んでいた焼き菓子をアルブロシアに向かって差し出す。 「おっ、もーらいー ……うまっ!!」 「おめーって奴はッ、少しは考えろってばよ。……おろ、本当に美味めぇ」 「うん、これ美味しいよ」 フェイトが差し出した焼き菓子を、横からルスカシアが一枚さらって口に放り込む。それをたしなめたダリアも、フェイトがハンカチを引っ込める様子が無いのを見て自分も一枚とって一口かじり、最後にアルブロシアが手をつけた。 三人が三人そろって焼き菓子が美味しいことに驚いている様子に、フェイトは、三人にも食べてもらって良かったと思った。 「よしっ、もう一枚~」 「おめぇは少し遠慮しろッ!」 さらにもう一枚と手を出したルスカシアの手の平を、ぺしっと叩いてひっこめさせたダリアが、フェイトに向き直って頭を下げた。 「美味しいものを、ありがとうございました。改めて友人の無礼をお詫びします。申し訳ありませんでした」 「いいえ。問題ありません」 「ごめんなー フェイトって、あんまりに可愛いからさー 一回抱き心地を確かめてみたかったんだー」 「それもどうかと思うよ」 てへへー という表情で笑ってごまかそうとするルスカシアを、アルブロシアが冷めた目で見、ダリアがやれやれという表情になった。 そんな三人の仲の近しさに、フェイトは色々なことを不思議に思った。見たところ、生まれも育ちも性格も随分と違う様子の三人であるのに、こうして仲良く歌を唄って楽しんでいる。その様な関係というものは、少女はこれまで見た事がなかった。 「そーいや、ダリアってば、せっかく隣なのに全然フェイトと話さないのな」 「たりめぇだろうが。そもそもきっかけが無かったんだからよ。あと、食事時にぺちゃくちゃおしゃべりすんのは無作法なんだよ。お前もちっとは反省しろ」 「いやー でも食事って、にぎやかな方が楽しいじゃん」 「生憎と世の中には、礼儀作法っていうもんがあんだよ。お前は少し勉強しろ」 ぎゃあぎゃあと言い合うダリアとルスカシアの二人を、じっと見つめているフェイトに、困ったな、という表情でアルブロシアが視線を向けてきている。 「お、そーだ。お菓子のお礼なー」 いい加減ダリアとじゃれあうのに飽きたのか、ルスカシアはフェイトに近づくと、自分の頭の両脇で癖の強い茶髪をまとめていた黒いリボンをほどいて、フェイトの髪をまとめ始めた。 さすがにルスカシアのこの行動は予測できなかったフェイトは、目をなんどもぱちくりとまばたきしつつ、彼女のやりたいようにさせるしかなかった。 「……うおっ、可愛ぇっ!!」 「うわ……、確かにこれは反則だぜ……」 「うん……」 両耳の少し後ろあたりの上の方で黒いリボンでまとめられた金髪が肩から後ろに二筋流れ、「学院」の黒い制服と白いケープ付きカラーのせいでよく映えている。フェイトの瞳はどこまでも澄んだ真紅の色合いで、ま白い肌と透き通るような金髪の中で一点の輝きとなって強い印象を他人にあたえた。 だが、そうした自分の容姿に全く興味がないフェイトにとっては、あまりのことに絶句した三人の態度は理解の外であった。ただリボンを譲ってもらったという事実だけが彼女にとっては意識するべきことであって、少女はルスカシアの前に歩を進めると、ぺこりとおじぎをした。 「ありがとうございました」 「お、おう。……皆には黙っとく」 頭を下げたフェイトの耳元に唇を寄せたルスカシアが、そう一言つぶやいた意味を、少女は正しく理解した。 なにしろ彼女はフェイトの髪をまとめるために頭に触れているのだ。少女の側頭部に本来は生えているべきものが切り落とされた跡にも触れている。だが、その事実をおくびにも出さないだけの性根がルスカシアにはあった。彼女が黙っている、と口にした以上、本当に墓場まで黙ってもってゆくつもりなのであろう。それだけの覚悟が、彼女の短い一言の中に感じ取れた。 だからフェイトは、もう一度深く腰を折って、ルスカシアのその覚悟に礼を述べた。 ルスカシア達三人と別れたフェイトは、一度寄宿舎の方に戻ってみることにした。人がいないはずのところにも、ああして人がいる以上、無名が人のいないところにいるとは考えられなくなったからである。人の気配が感じられても、実際には人が訪れないところ。そういうところを探してみることにしたのだ。 そうして建物へ向かって林の中を歩いていると、不意の開けた場所に出た。そこは人の手が入っていて、小さいながらもよく手入れされた菜園になっている。諸々の作物のみならず、各種の薬草までも植えられていることに興味をもったフェイトは、立ち止まって観察を始めた。 「フェイト学生じゃね」 その老人の気配に声をかけられるまで気がつけず、フェイトは、はっとして声の方向に向き直った。 そこには、粗織りの粗末な修道服に麦わら帽子をかぶった老修道僧が、農機具を手に立っていた。真っ白い髭を綺麗に整え、すっくと真っ直ぐに背筋を伸ばしている姿は、とても見た目通りの老人には思え無い。さらに老人が声をかけてきたのが、フェイトの間合いのすぐ外側からということが彼女の注意を喚起した。 「そこで立っているのもなんじゃろう。こちらに来て座りなさい」 「はい。学院長殿」 彼が入学式の最後に色々な講話をしたことを覚えている。エウリュネス・クラウディウス・ネロ導師。かつて帝國元帥にして帝國方伯であり、副帝レイヒルフトにも匹敵するとも噂された軍事的才能の持ち主。今では出家し、この「学院」の学院長として「帝國」の次を担うべき若者らを育てている教育者にして聖職者。 だが、フェイトの目の前に立っている老人は、奥深さこそ感じさせるものの、ただ姿勢の良い好々爺にしか見えない。 エウリュネス導師にうながされるままに菜園の外れに据えられている丸太の長椅子に腰を下ろした。 「どうやら馴染めている様子じゃな。善き事よ」 「ありがとうございます」 「探し人は見つからぬ様子じゃが、案外近くにおるかもしれんよ。人は往々にして足元は見えぬもの故にの」 「!?」 フェイトが無名を探していることは、この老人は知らぬはずである。傍から見れば、ただ林の中をさ迷っていたようにしか見えないはず。 「ふむ、驚いた様子じゃな。何、歩いている人を見る時、まず足元を見てみなさい。歩き方と靴は、嘘をつかぬからの」 「よろしいでしょうか、学院長殿」 「なにかの?」 「私の足元から何を知り得たのでしょうか?」 フェイトは、自分の足元を見、学校指定の短靴と長靴下をはいていることを確認し、そこからこの老人が何を知り得たのか理解できずにいた。 「その事か。靴に泥と裏手の倉庫の辺りの樹の葉が付着しておるな、そして手に包みを持ち、疲れておるのか膝があまり上がっておらなんだ。その上で林の中を真っ直ぐに建物へ向けて歩き来た。今の時間帯は、学生は寄宿舎か校舎におるはずじゃからの。そこから倉庫の方に歩いてゆき、そしてまたこうして真っ直ぐ戻ってきたわけじゃ。何か誰かを探しておったのじゃろう、とは、まあそう思ったわけじゃよ」 「了解いたしました」 「ついでに言えばの、そのまとめてある髪も、左右で長さが違うておる。その黒いリボンを貰って、その場で髪をまとめてみた、そんなところかの」 「……はい」 本当によく見ている。多分今口にした以上の事もフェイトのあり方から見てとっているのであろう。これが副帝レイヒルフトに特に請われて「学院」を任されることになった男か。少女は内心、この老人にどういう態度をとればよいのか判らず、色々な可能性を考察しようとした。 「難しく考える必要はないんじゃよ。ただ見たものを見た通りに見る。感じたもの感じた通りに感じる。意味を付けるのはその後のこと。そう師から教わらなんだかの? 事物はただその場に在るもので、それの意味は、意味をつける者の数ほどにも種類がある故にな」 その言葉はフェイトにとっては馴染みのある内容であった。そもそもが魔導とは、観測者と観測対象との相互性で成立している。そして両者の存在の意味は、その時その場で相互の関係性によって規定されるものであるのだ。 「ただ歩いてみるだけでも、人は、見るべき様に見れば、未知に出会うことができる。故に未知を既知とするために人は歩いてゆくものじゃよ。そなたは今日は多くの未知と出会い、受け入れた様子じゃな。善き事かな。善き事かな」 皺深い顔に穏やかな微笑みを浮かべてそう語った老人に、フェイトは、ただうなずいて返すしかできなかった。この老修道士がフェイトの事情について何も知らぬわけがない。むしろ全ての事情を知った上で学院に受け入れたのであろう。魔族である自分を、そうと知った上で受け入れてくれる人がここには何人もいる。その事実にフェイトは知らず知らずのうちに感謝の気持ちを抱いていた。 「……よろしければ、いかがでしょう?」 「ほう。これは美味しそうなお菓子じゃな。それでは、それをお茶請けにするとしようかの。ついてきなさい」 丸太から立ち上がったエウリュネス導師の背中にぺこりとお辞儀したフェイトは、そのまま老人の後ろをついていった。 エウリュネス導師の元でお茶を喫し、お礼を述べてからその場を去ったフェイトは、ふと思い立って礼拝堂の方へと歩いていった。老修道士の話は含蓄に富んでいて、色々と考察してみる価値のあるものであった。その充実した時間の余韻を感じたままでいたくて、あえて寄宿舎の方には戻らなかったのである。 そうして歩いていると、礼拝堂と校舎の間の人気の無い敷地で、一人木刀を振るっている少年がいた。いや、この「学院」の女生徒の制服を着用している以上、少年と呼ぶのは相応しくはない。だが、少年としか形容しようのない雰囲気を身にまとった者であった。 彼が新しく第901大隊の第766教育隊に配属された学生の一人で、モリフォリウスと呼ばれていることをフェイトは思い出した。 「やあ。君はフェイトだね。僕はモリフォリウス」 「ごきげんよう」 フェイトの視線を感じたのか、木刀を振るうのを止め、真っ直ぐの姿勢をとり右手の人差し指で天を指しつつ左手を組み人差し指と小指を立て、モリフォリウスはそう名乗った。 そんなモリフォリウスにフェイトは軽く会釈して挨拶した。 「礼拝堂に何か用かな。もう誰もいないけれどね」 「いえ」 別に礼拝堂に用があるわけではない。ただ無名を探して歩き回るのは止めにしただけのことである。歩くために歩いている、というのが今のフェイトの気持ちに近いところであろうか。だが、それを口にするつもりはなかった。 「誰かを探しているなら自習室にゆくといい。何かを探してるなら舎監のところにゆくといい。物事には、かく為るように為る「道理」というものがあるのだから」 「はい」 このモリフォリウスが何を考えているのか、フェイトには別の意味で判らなかった。多分何も考えていないのではないか、というのが正解に近いのではないか、とも思えてくる。 そんなフェイトの困ったような雰囲気を察したのか、判っていないのか、モリフォリウスは話題を変えた。 「是非教えて欲しいんだが、その手にしているハンカチの中身はなんだい?」 「先輩が焼いて下さったお菓子です」 「そうか。そういう行為もここでは許されているのか。修道会の寄宿舎といいつつ、なんという自由さ。いいね、気に入った」 「……………」 「そういうわけだ。僕にも一つ食させて欲しい」 「駄目です」 なにしろ色々な人に配って歩いたせいで、焼き菓子は残り一つだけになっている。最後の一つは無名の分なのだ。ここでモリフォリウスに食べさせるわけにはいかない。 「……フェイト。君は人が何のために生きているか知っているかい?」 「いえ」 「それはッ! 「欲する物を手に入れること」!! ひと言で言うならッ、人が生きるということは「ただそれだけ」なのさ!!」 すっと体捌きでフェイトの前に移動したモリフォリウスが、くるりとその場でひと回転し、少女の右手に移動する。 フェイトが左手の方に身体を移した時には、すでにハンカチはモリフォリウスの手に移っていた。 「うおォン! 美味い、美味いぞーッッ!! フェイトぉおおッ!!」 ハンカチに包まれた最後の焼き菓子を口に放り込んだモリフォリウスが、全身を使って喜びを表している。さしものフェイトであっても、彼のその姿にはいらっとくるものがあった。次の訓練日には、ナタリアに頼んで是非ともモリフォリウスと模擬戦をすることを心の中で誓う。 わずかに目を細めて無表情なまま、内心ではそれなりに不愉快な感情を覚えていたフェイトに、少し離れたところから声がかけられた。 「よう。どうしたフェイト」 「無名さん」 「機嫌、悪そうだな」 礼拝堂の影から現れた無名が、軽く右手を上げてすたすたとフェイトの方に向けて歩いてくる。学院長の言う通り、ごく近いところにいた。その事に内心では舌を巻きつつ、フェイトは無名に向けてぺこりとお辞儀をした。 「髪、まとめたのか。似合っているぜ」 「ありがとうございます」 ふっ、と目を細めて笑った無名に、フェイトはもう一度ぺこりとお辞儀をした。普段、人の容姿について何も口にしない無名が褒めるのだ。きっととても良く似合っているに違いない。 「で、何があったんだ」 「焼き菓子を頂きました」 「そうか」 「無名さんにも食べていただくつもりでしたが、無くなってしまいました」 「そうか」 「最後の一つを彼が食べました」 「そうか」 次の瞬間、無名はまるで「転移」したかの様にモリフォリウスの前に立っていて、軽く左肘を上げて身体を半回転させていた後であった。 そして、モリフォリウスはすとんと膝から崩れ落ち、その場に尻餅をつくようにして地面に座りこむと、そのまま仰向けに倒れた。その無名の動きを、フェイトは全く目で追う事ができないでいた。 「どうやったのですか?」 「肘をおとがいに当てた。しばらく寝ているだろ」 「はい」 無名にモリフォリウスの行為について伝えたのは、単に事実を知らせるべきだと思ったのが理由である。まさか即座に意識を刈り取るとは、さすがにここ数ヶ月一緒に営舎で暮らしていたフェイトにも読めなかった。クラウディアが彼女のことであれこれ心配するのが何故か、今この瞬間はっきりと心と身体で理解できた。確かに彼女は危険だ。ささいなきっかけで何をしでかすか判らない。 「なあ、本当にもう無いのか?」 「セレニア先輩が持っている可能性が高いです」 「本当かよ。まいったな」 そんな無名であっても、セレニアは苦手とみえる。眉をハの字にして、どうしたものかと思案顔で困っている。 だからフェイトは、初期の目的を達成するべく、無名に提案してみることにした。 「私と一緒に、お菓子を食べさせてもらえないか、頼んでみましょう」 セレニアは、フェイトのお願いに抗うことはできなかった。
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高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、八神はやて、共に19歳。アリサ・バニングス、月村すずか、と同様に私立聖祥大学の1回生である。 夜空を見上げる度になのはは思う。この空が偽りでさえなければ或いは、と。 昼は変わらなくとも、青みの少ない夜空は飛んでいてもどこか濁っている様な気がして閉塞感を感じさせる。 輝く星達は不規則に瞬き、流れていく。透き通る様に青い本当の空と美しい星は彼女の前から、いや世界から失われた。 何故そう思うのかは解らなくとも、確かに薄紫に曇った今の空は昔の空とは違う。 誰もが理由は知らねども原因は知っている。それは10年前に地球を貫く光と共に突如開いた巨大な穴、東京の地獄門〔ヘルズ・ゲート〕、ブラジルの天国門〔ヘヴンズ・ゲート〕。 この二つの門が世界から本物の空と宇宙への道を奪った。空は人類を拒絶し、人が行けるのは成層圏まで、人工衛星は使い物にならなくなってしまった。 政府はヘルズ・ゲートのその最奥にあるものを隠すかの如く、壁を築いた。直径にして10kmの範囲が500mを越す巨大な壁で覆われ、更に外側2kmも立ち入ることはできない。 故にその最奥に何があるのか、誰も知らない。 門の出現によって奪われたものは空だけではなかった。おそらく、知っているのはなのは達だけだろう。 惑星を覆う天蓋は別世界への道をも閉ざした。 偽りの空はなのは、フェイト、はやて、その家族、そしてなのはを訪ねたユーノ・スクライアごと人々をこの世界へと閉じ込めてしまった。全ての通信手段も転移魔法も通用しない。 10年の時が流れても管理局が動いた気配はない。動いていても解るはずもない。 もしも空がこうでなければ、今頃ミッドチルダで本格的に管理局の仕事に就いていたかもしれない。そう思うと少し胸が疼く。 今でも錆び付かない程度に魔法の訓練は怠っていないし、人を助ける為にこの力を使うこともあった。だが仕事と呼ぶには程遠くほとんど趣味に近い。 考えて答えの出ることは無いが、この空が自分の未来を変えてしまったのかもしれない――そう思えてならない。 だが、人はどんな状況にも慣れてしまう。空が変わっても、人々の営みに起きた波紋はやがて収束し、日常を適応させていった。それはなのはも例外ではない。 唯一『天国戦争』と呼ばれたヘヴンズ・ゲートを巡っての戦争を除いては。 5年前に起きた激しい戦争は謎の発光現象、それにより門から半径1500kmが世界から分断された不可侵領域へと変じた『天国門消滅事件』によって勝者のいないまま終結した。 その夜のことは今でも鮮明に覚えている。記憶にあるのは空を埋め尽くす流星群。 あの夜、なのはも無数に流れる幾千万の星を一晩中眺めていた。一つ一つ消えていく星の輝きはまるで消えゆく命のように哀しげで儚げだった気がする。 10年前、不可解な事件や犯罪が急増した。常人には到底不可能なはずの事象が世界中で起こり出したのだ。 なのはもそれを目の当たりにしたのはつい最近だったが。 ひょんなことから、ある事件を独自に追った際、黒衣に身を包んだ仮面の男と出会う。仮面の男は腕から青白い電気を発生させ、なのはの追っていた犯罪者を殺害。 男は息絶える寸前に仮面の男を指し『黒の死神』と言い残した。 仮面の男も犯罪者も、『契約者』と呼ばれる存在だと知ったのはずっと先の事だ。 次の日、翠屋に新しいアルバイトの青年が雇われた。名前は李舜生〔リ・シェンシュン〕。 留学生らしい彼は大人しく、且つドジで放っておけないような、そんな好青年。 彼が現れた日から、彼女と彼の頭上にはある星が瞬き出す。昏い輝きを放つ星は見上げる度、何故かなのはの気を引いて止まない。 その星の名〔メシエ・コード〕――『BK201』と共に。 目次へ 次へ
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というわけで、何故かフェイトが覚醒するの回。本来彼女は受身キャラのはずが、自分からクラウディアや無名にアプローチをしかけたり、キャラが勝手に動くというのはこういうことか、と、いう感じである。もっとも、口調からして元のリリなののフェイトとは違っているわけであり、このフェイトはあくまで「帝國」SSのフェイトということであると再確認したわけだが。 ここしばらくフェイトは、勉強する時には自室に戻ってきてから帳面をひらくようにしている。自習室で勉強しようとしても、色々な人間が近寄ってきて話しかけるので勉強にならないのだ。特に髪の毛を二つにまとめるようになってからは、その傾向が強くなっている。ただそれだけの事であるのに、何故他人の態度にこうも変化が起きるのか、不思議でならなかった。 確かに不思議であるが、だからといってそのまま放っておくのも実生活に支障がある。髪をまとめるのを止める事も考えたが、無名とクラウディアが露骨に残念そうな表情をしたので、そのつもりも失せた。 「何故、皆さん私に触りたがるのでしょう?」 「……うん? そうだね、きっとフェイトが可愛いのと、さわり心地がよいからじゃないかな」 同じ様に自室で勉強していたクラウディアに、その手が止まったところを見はからって声をかけた。 クラウディアの答えはフェイトの推測の範疇にとどまっており、現在の状況を改善するための材料にはなりえない。 「はい。ですが、皆さんは互いに触りあったりしていません。私だけが触られたり抱きしめられていたりしています」 「もしかして迷惑だった?」 「このままですと、「学院」での生活に支障をきたすのではないかと考えました」 クラウディアは腰を上げると、椅子の背に両腕を乗せて、さらにその上にあごを乗せてフェイトに向き直った。 「迷惑なら、止めさせるよ」 「いえ、そういうことではないのです。何故、私だけが皆さんにとって特別に可愛がられるのか判らないのです」 「うーん、そうだね、一つにはフェイトが嫌がるそぶりを見せないというのは大きいと思う。だから、みんな遠慮しなくなってきているというのはあると思うよ」 「はい。ですが、示される親愛を拒むのは、私にはできません」 フェイトは魔族である。それも双性者であり魔導八相に達した導師でもある上級魔族なのである。その自分が人族の集団に受け入れられ、純粋な好意を示されるということは、とても価値があることだと思っていた。かつて自分を救ってくれた黒騎士ヒュドの言葉を、彼女は一度として忘れたことはない。この「帝國」においてすら、魔族が差別されることなく生きてゆけるのは軍隊の中だけである、ということを。 ここはあくまで「教会」に所属する修道会が経営している寄宿舎制学校である。その集団の中で自分が魔族であることが明らかとなった時、どのように排除の対象として扱われるのか、それが非常に陰惨なものとなるであろうことをフェイトにも簡単に予想ができた。 「……そうだね。ばれてはいないけれど、フェイトには事情があるからね」 「はい」 「まあ、でも、その全か無か、という割り切りはちょっと違うと思うんだ」 「といいますと?」 「親しき仲にも礼儀あり、ってね。どんなに仲の良い間柄でも、守るべき礼儀はあるってこと。フェイトも、困るならば、相手にそう伝える必要はあると思うよ」 「……………」 確かに礼儀は人間関係を円滑に保ってゆくために必要なプロトコルである。それが理解できないほど、フェイトも物知らずというわけではない。だが、その線引きがよく判らない。元々彼女は、森の中で母親と二人きりで生活していたのだ。微妙な人間の間柄の機微にうとくても仕方がないといえた。 「まあ、そのあたりはおいおい学んでゆけばいいんじゃないかな?」 「はい」 フェイトの困惑をみてとったのか、クラウディアは、それ以上深く話を進めなかった。 フェイトは、クラウディアのそうした気配りを常々好意的に思っていた。だから、この瞬間、ふと親愛の情を抱いているのだ、と、彼女に示したくなったとしても、それはそれで自然ななりゆきであったといえよう。 「クラウディアさん」 「なんだい? あらたまって」 「もふもふしてよいですか?」 「はい?」 突然のフェイトの希望に、さしものクラウディアも思考がおいつかず固まってしまっている。 クラウディアの思考が再度動き始めるまで、フェイトは黙って待ち続けた。 「……ええと、なんで突然そういう話に?」 「もふもふしたくなったからです」 この「学院」に来てから、クラウディアはフェイトのことを親身に世話してくれていて、そして温かく見守ってくれていた。そのことには常々感謝していたし、そして感謝しているという事実を示したいと思うこともままあったのだ。ただそれを示したくても、これまではそのための手段を彼女が知らなかっただけである。触れたり、撫でたり、抱きしめたりすることが相手への親愛の情を示す行為ならば、さっそくそれを実行してみるべきであろうと、彼女はそう考えたのだ。 「う、うん。それは構わないけれど」 「ありがとうございます」 フェイトはぺこりとお辞儀をすると、そのままクラウディアの寝台の横に移動した。 「つまり?」 「クラウディアさんは、私よりもずっと背が高いです。そのままではもふもふできません」 「うん。じゃあ、そこに座ればいいんだ?」 「はい」 クラウディアは、フェイトの返事にうながされるようにして、自分の寝台の上に腰を下ろした。 フェイトは、自分も靴を脱いで寝台の上に上がると、クラウディアの横に膝立ちとなって彼女を抱きしめた。まずは彼女の頭を自分の胸に抱きしめ、ゆっくりと髪をなでる。それから鼻先をその黒い真っ直ぐの髪にうずめ、ほほすりした。普段知っているよりも、ずっと強く彼女の体臭と体温が感じられる。 クラウディアの体温が徐々に上がってゆくのを感じ、フェイトは、自分の心臓の鼓動がそれに合わせて早くなってゆくのを自覚し、どうしようかとしばし考えた。 「……はいぃ!?」 フェイトが出した結論は、クラウディアのことをもっと強く抱きしめることであった。 そのまま彼女の膝の上にまたがり、腰を下ろす。眼鏡越しに見開かれたクラウディアの蒼い瞳をのぞきこんで、彼女の上げた声にフェイトもびっくりしてしまった。 「ええと?」 「……駄目ですか?」 「い、いや、かまわないよ、うん」 「ありがとうございます」 クラウディアのかけている眼鏡が、なんとなく二人の間の壁になっているような気がして、フェイトは少し不愉快に思った。彼女はそのまま両手でそと眼鏡を外し、クラウディアの机の上に「転移」させた。 素顔の彼女は、頬を上気させていて、そしてその蒼い瞳がすっと吸い込まれるように澄んでいて綺麗だとフェイトは感じた。彼女の瞳に映る自分の顔も、きっと頬が上気していて、そしてその瞳を綺麗だと思ってくれると嬉しい。そう思った少女は、自分の鼻先を彼女の鼻先にすりつけ、また彼女の匂いをかいだ。今度は、少し汗の匂いが混じっている。 その汗の匂いが自分のものか、彼女のものか判らず、フェイトはクラウディアの身体に両腕を回し、鼻先を彼女のほほにあてた。 「……………」 「汗の匂いがします」 ほほから首筋に鼻先を移動させ、そして互いの身体を密着させる。とくとくと早くなってゆく心臓の音はどちらのものか。 「あ、あのさ」 「はい」 「ええと、すごい言いにくいことなんだけれど……」 「はい」 「膝に、当たってる。その、固いのが」 「?」 ほほが熱いくらいになってしまっているクラウディアが、かすれがちな声でそう言ってきたとき、フェイトはその言葉の意味が理解できていなかった。 しばらくその言葉の意味を考え、そして、自分が双性者で、そのもう一つの男性としての自分も上気していることに気がつく。 「問題なのですか?」 「……ええとさ、さすがに嫁入り前の身としては、ちょっと刺激が強すぎるというか、いや、フェイトのことが嫌だとかそういうんじゃなくて、つまり、乙女として恥ずかしいというか……」 「つまり、問題なのですね」 「……うん……」 問題があるというのならば、仕方がない。これ以上クラウディアをもふもふできないのは、本当に、真に、心の底から残念であるが、しかし、今は諦めるしかない。 フェイトは、心惹かれる思いの辛さを必死になって我慢しつつ、ゆっくりと自分の身体を引き離した。 目の前のクラウディアは、顔は真っ赤に茹で上がっていて、そして今すぐにも崩れ落ちそうなくらいに脱力している。自分も体温が上がり、心臓の鼓動がいつになく早くなってしまっていて、このまま同じ寝台にいる事がいたたまれなくなる。 いう事をきかない身体を無理矢理動かして、寝台から降りて靴をはいたフェイトは、クラウディアの顔をじっと覗き込んだ。 「……また、もふもふしてもよいですか?」 「……毎日、とかじゃなければ、いいよ、うん」 なんとか自分を取り戻したクラウディアは、何度かまばたきをしてから、フェイトの瞳を見つめ返しつつそう答えた。 フェイトは、何故に皆が自分のことを抱きしめ、もふもふしたがるのかが理解できた。次の機会には、抱きしめるだけではなく撫でてみよう。そういう欲求が心のうちに湧いてきて、その事実に新鮮な驚きを感じる。そして、きっとそれはとても気持ちがよいことに違いない、そうも思った。 フェイトは、新たに知った感情の動きに軽い驚きと、大きな満足を感じ、そのまま寝巻きに着替えて自分の寝台にもぐりこんだ。 そんなフェイトが寝息を立てるまで待ってから、クラウディアはのろのろと身体を起こし、自分も着替えて寝台に転がった。 次の日の朝には、二人とも普段の通りに戻った様子になっていた。正確には、何も無かったかのように振舞うことで、二人の間に生まれた微妙な雰囲気を無視することにしたのであるが。ただ、その事実を理解していたのはクラウディアだけであって、フェイトは本当に普段どおりに振舞っていたのであったが。 そんな二人が食堂へと向かう途中、同じように食堂に向かう無名と一緒になった。 「よう」 「おはよう」 「お早うございます」 「……?」 互いに挨拶を交わしたところで、無名が足を止めていぶかしげな表情になる。 フェイトは、そういえば無名にも親愛の情を示さないといけない、と、突如そういう思考が発生していた。クラウディアに親愛の情を示したのである以上、無名にも同じ様に振舞うべき、と、そう考えたのだ。 「無名さん」 「ああ?」 「もふもふしてもよいですか?」 「!?」 フェイトの突然の言葉に、無名は、驚愕に目を見開いてわずかに口をあけた。そして、何度も視線をクラウディアとフェイトの間をいったりきたりさせ、最後にクラウディアのことをにらみつけた。 「お前、フェイトに何をした?」 「……わたしじゃないよ。ううん、正確には、皆にされていることを自分でもしてみたくなったんだ、フェイトは」 「臭い、混じっているぜ」 すっと目を細めて殺気だった無名を、フェイトは、そっと近づいてからその両頬を両手ではさんで自分の方に顔を向けさせた。 「もふもふしていいですか?」 「……お前」 「いいですか?」 じっとフェイトに瞳をのぞきこまれ続け、無名は、まとっていた殺気を消し軽く頬を上気させて呟いた。 「好きにしろよ」 食堂へと向かう女生徒らの注視の中、存分に無名をもふもふしたフェイトは、何かすっきりした憑き物が落ちたような表情で食事をとりに歩き去った。 残された無名は、顔を真っ赤にし、腰が砕けたのが廊下にへたりこんだまま、軽く口をぱくぱくと動かしている。クラウディアは、そんな無名のことを抱き起こすように立たせると、肩を貸し抱きかかえるようにして食堂へと向かった。 「……なあ、クラウディア」 「なに?」 「俺もお前の事をもふもふしていいか?」 「……人目につかないところでなら」 「お前、本当にいい奴だよな」 「そんなんじゃないよ」